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 国内外の現代アートが集う芸術祭「ワカヤマサローネ」が9月13日(日)から1ヵ月間、和歌山県内15会場で一斉に開かれる。元漆工場や木造の元旅館など味わいある建造物に気鋭のアートを展示し、独特の空間を作り出す。実行委員長の小川貴央さんは「作品とともに和歌山自体を旅するように巡ってほしい。和歌山の芸術文化に種をまき、耕していきたい」と意気込む。

 地域全体を会場に見立て、数ヵ月の期間を設けて開く芸術祭が全国で盛んだ。いずれも他府県から大勢の客が訪れ、地域活性策として注目される。特に瀬戸内海の島々で開かれる「瀬戸内国際芸術祭」は、2013年開催時に107万人が来場し、うち中心開催地の香川県外からは3分の2が訪れた。

 小川さんは13年、加太の古民家や公園にスクリーンを設けた「KissshーKissssssh(キシューキシュー)映画祭」を立ち上げ、今年も9月に3日間開催する。昨年は滋賀で開かれた芸術祭「BIWAKOビエンナーレ」の事務局長を務め、半年間、広報や設営を経験。和歌山でも開こうと、市民有志で昨年、実行委を結成した。

 県外から訪れる人にも巡ってもらおうと、中心市街地以外に加太や和歌浦、海南市黒江、高野山などの名所に会場を点在させる。会場にはギャラリーだけでなく、明治時代、宿場町として高野山への参詣客を迎えた橋本市高野口町の葛城館、海南市黒江で紀州漆器の生産が盛んだった昭和初期に建てられたレンガ造りの田島漆店旧工場など、レトロな雰囲気が漂う建造物を活用。畳の部屋や浴場などを使い、ユニークな展示を仕掛ける。

 10年にBIWAKOビエンナーレに出展した和歌山大学教育学部の永沼理善(ただよし)教授は、漆工場跡に作品を展示。「眠っていた場所、忘れ去られた場所に作品が置かれることで人が集まるという、逆の現象が起きる。芸術祭は作家や作品の方から街へ溶け込んでいきます」

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 会場に選ばれた和歌山市小野町の登録有形文化財、西本ビルと和歌浦で明治大正期に栄えた旅館、あしべ屋妹背別荘を管理する西本直子さんは「あしべ屋別荘は島にあって橋を渡るのが全国的に珍しい、由緒ある場所。今後も残していくために多くの人に知ってもらえるよう、活用法を模索しています。今回は若い方々が新鮮な目でとらえてくれることが楽しみ」と期待する。

 30組以上に上る出展者の顔ぶれは多彩だ。今春、県立近代美術館で巨大絵画を公開した有田市出身の伊藤彩さん、本宮町生まれでジャズの巨匠を多く撮影する中平穂積さん、岩出市在住の和伽(おとぎ)人形作家、亀井潤さんら和歌山ゆかりのアーティストはじめ、画家と彫刻家による「アートユニットハスト」ほか美術ファンが注目する気鋭のアーティストを招いた。イタリア人作家による公開制作や音楽ライブ、公募作品の展示もある。

 小川実行委員長は「期間中は多くの場所で作家とふれあえる機会があります。和歌山にいながら都市圏や海外で活躍するすばらしい作家をもっと知ってもらいたい」と描いている。

 サローネは10月12日(月)まで。詳細はHPで確認。フリーパス1000円(ライブや上映会など各イベントは料金別)。

写真 この記事上から=会場の漆工場跡を見学する実行委とアーティストら 出展者の一人、永沼教授の作品例

(ニュース和歌山2015年8月22日号掲載)

参照記事「Kisssh-Kissssssh(キシューキシュー)映画祭」〈ニュース和歌山2013年8月31日号掲載〉

このほか、小川貴央さんに関する記事はhttps://www.nwn.jp/old/で検索を。