【秀吟】

満たされた暮らしに頬をふと抓る   楠原 富香

立ち止まりふと確かめる現在地    上村八重子

ふと思う今日は故郷の祭りの日    米澤 俶子

雲行きでふと貝になる喉仏      吉川 孝子

私より若い父母ふと夢に       堀田 順一

ライバルは自分であるとふと気付く  武本  碧

自分史の節目にふとが転び出る    森口 美羽

ふと思う七十年の罪と罰       磯部 義雄

産声に女はふっと立ち止まる     楠見 章子

嬰児をふと神様が笑わせる      宇野 幹子

落ち込んだ日ふと見上げれば笑う月  小川あき子

金平糖ほどの鬼ふと顔を出す     大谷  唯

ふと過ぎるあの日あの時あの微罪   冨吉  剛

三席・火山列島小松左京をふと思う  古久保和子

二席・大落暉ふとわたくしも絵の中に 酒井 純子

一席・往く末をふと考える箸二膳   玉置 当代

 選者吟・気がつくと勝手に振っていた尻尾

【寸 評】

嬰児をふと神様が笑わせる      宇野 幹子

  誰しもの共感を呼ぶ佳句で、特に課題の「ふと」が実に的確に使われています。

ふと過ぎるあの日あの時あの微罪   冨吉  剛

  良い句の三条件は、発想、表現、リズムだと言われています。この句はその三条件をすべて完璧に備えられています。特に「微罪」は誰しもが思い当たることで、その着想に感嘆させられました。

10月の兼題は「巨大」。15日(木)必着。

1人3句まで。〒640・8570ニュース和歌山編集部「和歌山三幸川柳会」係へ。

(ニュース和歌山2015年9月19日号掲載)