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 和歌山市のシンボル、和歌山城の活用法を示す「史跡和歌山城整備計画」。策定から20年が経過した今年度、市は本格的な見直しに取りかかっている。城の南西にあった芝生広場「扇の芝」の再生をはじめ、今年度中に江戸時代の武家屋敷の一部、長屋門を岡公園に移築し、城下町和歌山の風景の再現を目指す方針で、和歌山城整備企画課は「近年は登城者が増加傾向にあり、城内外の整備も進んでいる。お城を核に、城下町をしのばせる風景を広げたい」と話している。

 1995年に策定した整備計画は、岡口門からの入城者を見込み、岡公園への地下駐車場建設や、天守閣を木造に造り替えるなど整備規模の大きい事業計画が並んでいた。しかし、この20年で経費や効果の面から実現性が低くなった事業が目立ち、計画の進行状況は良くなかった。

 「城を生かしたまちづくり」を掲げる尾花正啓市長の意向で、市は今年度計画の見直しに乗り出す。調査費約930万円を計上し、従来の計画の進ちょくと成果を検証。内容を個別に継続・廃止に仕分けるのに加え、従来の計画から続けて二の丸御殿の再生や、新たに扇の芝の整備を検討するなど、本来の和歌山城の姿を復元する取り組みを中心に考える。来年度中に有識者の意見を踏まえた案を出し、文化庁の承認を得て策定を目指す。「時代に合った形で整備を進め、歴史、観光の観点から城をよく知ってもらえるよう作成を進めたい」と同課の柳雄介さん。

 計画の改定に先立ち、進められているのが、岡公園への長屋門移築だ。紀州藩士の大村家が同市有田屋町に建築した門は、明治期に同市堀止東に移され、昨年、取り壊しの危機にさらされた。住民らの要望で県が保存を決め、移築先として白羽の矢が立ったのが城に近い岡公園。老朽化で取り壊しが決まっていた市の施設、児童女性会館の跡地だった。

 市の景観アドバイザーで建築家の中西重裕さんは「門は道路沿いを意識して造られた建築で、風情を生かすには道に面して移築するのが望ましい。門の特徴であるなまこ壁は戦前、伏虎中周辺で見られた景色で、少しでも当時の雰囲気を感じられるのでは」と歓迎。

 城下の風情の再現を目指す試みが進む一方、9月19日にオープンした市役所南館「わかやま歴史館」では、コンピュータで再現した映像で城内の雰囲気を味わえる。

 1階は観光案内所、土産品店、休憩スペース、2階は歴史展示室。展示室には約30人が入れるシアターがあり、本丸御殿や西の丸の能舞台などの建物を映像で映し、城内散策を疑似体験できる。また、市所有の金印「獅子紐印(ししちゅういん)」や甲冑(かっちゅう)、古文書などを展示。先人紹介のコーナーには陸奥宗光や南方熊楠らのパネルと共にゆかりの品が並ぶ。

 観光ガイド和歌山の松浦光次郎さんは「実際の風景が再現されていくと、口頭では説明できなかった当時の空気感も伝えることができる。和歌山城の歴史を深く知ってもらうきっかけになり、案内にも力が入ります」と期待。柳さんは「城と周辺一帯が和の景色が広がるゾーンになれば、まちづくりにも生かせるし、来城者もさらに増えるはず」と描いている。

写真=城の景観に配慮し、歴史館(手前)はシックなデザイン

(ニュース和歌山2015年9月26日号掲載)