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 都市部の若者らが過疎地域に移住し、地域の課題に取り組む「地域おこし協力隊」。和歌山県内では現在7市町で16人が活動しており、年々、数を増やしつつある。その中で3年の任期を終え、そのまま地域に定住するケースが出始めている。県は市町村に隊員のさらなる受け入れを促すが、各市町村は受け入れ体制の確立に苦慮する一方で、受け入れサポートのモデル事業を立ち上げる町も現れた。

 2012年、協力隊として大阪から紀美野町に 夫と移り住んだ増廣貴子さん。移住支援を中心に忙しい日々を送る中、高齢化が進む上神野地区にある蛇岩神社の伝統行事、正月の炊き出しが約10年途絶えていると知った。地元の人に顔を覚えてもらうところから始め、復活に奔走。地元の高校生に大絵馬を描いてもらう新趣向もこらした。昨年の元日、神社に150人が足を運んでくれた。「『来年も来るよ』の言葉に、これはやめられないと思った」と笑う。

 活動は住民を動かし、同地区にまちづくり協議会が発足。隊員で町内の未利用施設に石窯を設け、ピザ作り体験会を開いた。現在は和歌山大の学生も加え、都市と農村の人が交流できる拠点と産品づくりを目指す。

 任期終了前の今夏、地元の人が「この子の今後も考えたらなあかん」と気遣ってくれたのに感動し、定住を決断した。「次世代は自分たち。10年、20年先に向け、次の手を残さないと」と力強い。

 地域おこし協力隊は国が09年に立ち上げた。自治体が募り、面接を通じて隊員を選考。最長3年で、移住支援や鳥獣被害対策、高齢者の見守りと各地域が抱える課題解決が任務だ。隊員募集や報酬、家賃は国が支援する仕組みで、初年度の全国31自治体89人から、昨年度は444自治体1511人と増えている。

 和歌山では今春まで8市町9人だったが、9月現在で7市町16人と増えた。高野町1人、紀美野町3人、日高川町4人、新宮市2人、那智勝浦町2人、古座川町2人、串本町2人で、県過疎対策課は「従来から定住や都市との交流を進めてきた自治体が熱心。北海道や長野などに隊員数は及ばないが、地域の新しい担い手となり、住民の刺激になってほしい」。

 制度開始から6年、和歌山でも増廣さんのように定住の道を選ぶ人が出始めた。同じく紀美野町で今夏に任期を終えた千葉出身の小南摩貴子さんも町に残る。着任前から関心のあった雑穀のワークショップを開き、「起業を目指すうえで勉強になった。半農で様々なことに取り組みたい」と望む。

 他地域ではこれまで那智勝浦町で2人、新宮市、高野町、かつらぎ町で各1人が残った。那智勝浦町では1人が炭焼きを始め、1人は町職員に。高野町の元隊員は家族と起業した。

 県ではさらに隊員の受け入れを各市町村に促し、隊員の定住率を6割にしたい考えだが、各市町村は受け入れ体制整備に頭を悩ます。ある町の担当者は「受け皿の改善は常に必要です。住民側が隊員が何かやってくれると思い、動き出さなかったり、隊員が孤立したりと難しい面もある。現在は隊員の人柄に頼っているところがある」と言う。

 那智勝浦町は長年、Iターン者受け入れのノウハウがある「色川地域振興推進委員会」が協力隊を支える。町の担当者は「町全域が過疎化する中、色川以外でも隊員を受け入れていかねばならない。それができる形を考えないといけない」。

 こんな中、紀美野町は「地域おこし協力隊受け入れ体制・サポート体制モデル事業」を今秋から実施する。行政、地域、隊員が意識をすりあわせ、効果的な受け入れ体制を研究。県内での理想的な受け入れモデル構築を目指し、来月からミーティングや研修を行う。同町まちづくり課は「隊員と住民が一緒に育つのが理想ですが、互いの意識にギャップが生まれないようにするのが大事。県下全域に広がるモデルを考えることができれば」と話している。

写真=増廣さん(右から2人目)ら隊員が作った石窯

(ニュース和歌山2015年10月17日号掲載)