戦前、東京に次ぐ全国シェアを誇った和歌山の建具。和室の減少と職人の高齢化などにより廃業が続いている。そんな中、中井産業(和歌山市次郎丸)は洋間に合う現代風の障子を開発し、9月に日本デザイン振興会のグッドデザイン賞を受賞。中原製作所(同市湊御殿)は独自の木材のカット技術で特許を取得し、紀州材の扉づくりに取り組む。業界に冷たい風が吹く中、長年培った職人の技を生かし、新たな市場開拓に挑戦する2社を取材した。

 和歌山で建具業が興ったのは明治時代初期。建具は障子やふすまの枠組み、扉の総称で、紀の川を利用してイカダで運ばれてくる吉野杉や紀州ひのきを製材する過程で出る端材を組み、作ったのが始まりだった。大正時代には台湾、中国まで販路を広げ、和歌山建具の名を海外にも響かせた。

 しかし、高度経済成長期後、住宅の洋風化や後継者不足、大手住宅メーカーが量産化を進めたことで業者は徐々に減少した。県建具事業協同組合の組合員は1978年の274社をピークに現在は87社と3分の1に。ほとんどが和歌山市内の家内工業で、都市の住宅メーカーや建具業の下請けを担っている。

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 こんな中、1939年創業の中井産業は昨年、東京のデザイナーに力を借り、国産の天然木を使い、職人の手で作る新ブランド「KITOTE(木と手)」を立ち上げた。骨組みを前後で組み方を変え二重に合わせた障子や、格子を斜めにしてデザインを加えた障子を作り、敷居などをセットにして商品化。洋間にも合うデザインと、セット販売により新市場の開拓を目指す取り組みが評価され、9月にグッドデザイン賞を受賞した。尾崎義明社長は「田舎の町工場でも戦えるブランド力をつけたかった」と語る。

 障子を製造する下請け業者だった同社。安さ、早さ、高品質を求められ、職人には確かな腕があるが、規格品の簡易な障子ばかりを作ることにはがゆさを感じていた。尾崎社長は「量産する大手にはない、職人手作業の技術力の高さにこそ価値がある」と話す。

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 一方、都心のマンションや介護施設向けの木製扉を主に製造する中原製作所は、トヨタ自動車の高級車の内装デザインを手掛けたデザイナーと組み、紀州材を使った扉の開発を進める。人が近づくと自動で灯るLEDを付け、暗闇でも出入り口が分かる、高齢者に優しい商品を目指している。

 1898年創業の同社は高度経済成長とともに業績は右肩上がりだったが、リーマンショック後、業界の厳しさも増し、売上が落ち込んだ。中原勝美専務(写真下)は「世の中にないモノを生み出そう」と100年以上受け継いできた職人の技に活路を求めた。化粧板の裏側にV字型の切り込みを入れ谷折りにし、扉にデザインを施す加工法を編み出し、4年前に特許を取得。高級感があり、仕上がりが美しい独自の工法を武器に販路を拡大し、売上を回復させた。

 中原専務は「扉のデザインはどこも同じで価格競争の業界。人のしていないことをして先手を打ち、自社のブランド力で市場を開拓していきたい」と意気込む。

 同組合の東康夫理事長は「厳しい環境の中、アンテナを張り、改革に取り組む企業も何社かある。海外で日本の庭園や和風建築が注目されているので、技術力を生かし、再び世界にも市場を広げられるかもしれない」と期待している。

写真上=職人が手作業で障子の枠組みを作る中井産業
(ニュース和歌山2015年11月28日号掲載)