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 ドーム状の機械にざらめ糖を入れる。手にした棒を細かく巧みに操ると、白い糸がきれいな球状に紡がれていく。「すごーい」「かわいい」。見つめる子どもたちは自然と笑顔になる。〝出張わた菓子職人〟を名乗る和歌山市の会社員、伊東拓也さん(29)は半年前、週末に開かれるまちおこしイベントや福祉施設の祭りなどへの出店を始めた。その思いとは──。

 平日は船舶関連の会社に勤める伊東さん。週末になると各地のイベント会場に出向く。店名は
〝わた菓子屋─きりん〟。「3、4歳の時、祖父が買ってくれたぬいぐるみが気に入って。それを見た知人がキリンの小物などをくれ、家にはキリングッズが多いんです」。名前の御利益か、店には次から次へと客が集まってくる。

 イベントで売れるわた菓子は平均100本。最も多い日には230本を作った。その技は見事。棒は大きく円を描くように動かすのではなく、ドライバーでねじを締めるごとく細かく回す。「真球に近い形にできるように練習しましたよ」。魔法のような技を見るため、子どもたちはみな機械の中をのぞき込む。あまりに好評なため、小さい子も見やすいよう、台を用意している。

 数年前、児童養護施設を支援していた知人に、「生まれる子どもは減っているのに、施設に入る子どもは増えている」と聞き、自身も施設への寄付を続けていた。「この活動もいいんだけれど、給料とは別に独立して寄付にあてられる活動ができないか…」

 以前、施設で暮らす子どもたちを喜ばせようと、わた菓子機を購入し、訪問したことがあった。この機械を活用し、今年5月にネパールの復興を支援するNGOネバーランドプロジェクト主催のチャリティイベントに参加した。出店活動を本格化させたのは9月。以降、スケジュール帳の週末欄はほぼ毎週、予定が詰まっている。

 目下、バルーンアートも練習中。「とにかく子どもたちを楽しませたいので。食べ物が出店できないイベントでもパフォーマーとして参加できますし」と笑う。「子どもたちに喜んでもらい、そこで得た利益を寄付することで、別の子どもたちを笑顔にする。そんな支援の規模を少しずつ大きくできれば」

 メニューはノーマルな白のほか、イチゴ味の赤、メロン味の緑と3色。一番人気はイチゴだそうだが、どの色も同じく、やさしい味がする。

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 年内の出店予定は次の通り。海南サンデーマーケット=11月29日(日)、海南市船尾の温山荘公園▽チャリティーフェスタ=12月6日(日)、岩出市畑毛の吉村秀雄商店旧倉庫▽ポポロハスマーケット=13日(日)、和歌山市ぶらくり丁。

(ニュース和歌山2015年11月28日号掲載)