和歌山生まれのいちごと言えば、2010年の品種登録以降、人気を集める「まりひめ」が知られるが、県はこれに続くオリジナル品種第2弾の開発に力を注いでいる。新品種名は「紀の香」。病気に強く、需要が高まるクリスマスシーズンを前にした11月から収穫できるのが特徴だ。県農業試験場栽培部の東卓弥主任研究員は「まりひめを含め、県独自のブランドいちごで産地の活性化につながれば」と意気込みを見せる。

 

和歌山県産オリジナルいちご第2弾 病気に強く11月から収穫可

 

いちご農家 紀の川市貴志川町でいちごを栽培して20年、長谷川美枝さんが育てるビニールハウスの一角では、10月末からいちごが真っ赤に色づき始めた。今年、初めて試験的に植えた極早生(わせ)品種の「紀の香」だ。「酸味はあるが、甘みも強い。何より香りが本当に良い。食べた後、周りの人から『いちご食べたでしょ?』と言われるぐらいですから」とにっこり。

 県イチゴ生産出荷組合に入る農家の2015年の作付面積を見ると、52%がさちのか、40%がまりひめ。このうち、県産ブランドのいちごとして人気のまりひめは、甘さ、香り、色合い、形、つやなど市場の評価が高く、収穫量も多い。一方、かびが原因で枯れてしまう炭疽(たんそ)病に弱い欠点がある。

いちご これをクリアする新品種をと12年、同市の県農業試験場が研究を始めた。炭疽病に強い「かおり野」と、果実の品質が高い「こいのか」を掛け合わせ、育てた9654株から3系統にしぼりこんだ。昨年はこれらを県内全域6ヵ所の農家で育ててもらい、栽培適応性を確認して残ったものを「紀の香」と名付けた。  病気に強いのに加え、実をつけ始める時期が早いのも売りだ。まりひめは12月上旬、さちのかは12月中旬なのに対し、紀の香は11月上旬~中旬。まりひめに比べ、実はひとまわり小さく、ショートケーキ向きのM、Lサイズの物が多く取れる。

 この秋から県内31軒の農家で試験栽培中。このうちの一軒、長谷川さんは9月に130株を植えた。株数が少なく、まとまった数はまだ収穫できないが、少ないながらパックに入れて近所の農産品直売所に並べると人気は上々。11月上旬には「5パックほしい」との注文が舞い込んだ。「今はまりひめとさちのかを育てていますが、将来は紀の香とまりひめの和歌山オリジナル2本柱でいきたい」と描く。

 長谷川さんが育てた紀の香は菓子作りのプロにも好評。ケーキの注文販売や菓子講習会での指導を行うアンデルセン(岩出市船戸)の前野カヅイさんは「生クリームを使うケーキには甘味だけでなく、酸味が必要で、紀の香はそのバランスが良い。出始めの今でこれだけの味なら、旬になればもっとおいしくなるのでは」と期待する。

 今年3月に農林水産省へ申請した品種登録が通るのは2年後の見込み。本格的な出荷は3年後の予定だ。東主任研究員は「新品種ですから、まだ分からない点も多い。現場の皆さんと二人三脚で栽培技術の研究を進めたい」と話している。

写真上=長谷川さんのビニールハウスでは10月末から真っ赤な紀の香が見られるように

(2016年11月12日号掲載)