渡航案内や送金明細

021 那賀地方の移民史を研究する那賀移民史懇話会と紀の川市教委は12月14日(水)〜来年1月15日(日)、同市東国分の市歴史民俗資料館で展示会を開く。新たな史料の発見で明かされつつある移民の成熟期を紹介する。梅田律子事務局長は「たくさん見つかった史料の実物を並べます。当時の生活がありありと伝わるものばかりです」と語る。

 全国で6番目に多い移民を出した和歌山。那賀地方は県内の米国移民発祥の地で、1872年に渡った池田村(現在の紀の川市)の伊達多仲(だてたちゅう)がその先駆けとされる。帰国者や宣教師が外国事情を紹介したことで、1890年からの3年間で同村を中心に158人が渡米した。会は、祖父が移民だった梅田さんらが2年前に立ち上げ、子孫らを訪ねて聞き取りや史料収集を続けている。

 今春には、米国で缶詰会社の社長として成功した湯浅銀之助の親戚宅で50通以上の手紙を発見した。銀之助が「缶詰工場で出るイワシのカスを農業で使わないか」と持ちかけ、龍門山のふもとに肥料店ができたことが分かった。那賀地方の歴史を研究する岩鶴敏治さんは「移民と地元のかかわりは送金程度が多いのですが、両者の間で新しいなりわいが生まれていたことは珍しい」と見る。

 また、汽船の時刻表から船便の本数が多いことが分かり、旅行代理店の広告には「渡米の心得」やチケットの売れ行きなどの情報が豊富に載せられていた。「想像以上にシステム化されており、移民は遠い存在とのイメージが変わった。冒険的に行くのではなく、日常に近いものだったようです」と岩鶴さん。

 今展では、汽船発着表や渡航案内、写真、送金明細などの実物史料を並べる。梅田さんは「時代、場所、史料の書き手などの分析を進め、それらの関係性を整理して、歴史をひもときたい」と今後を見据えている。

 午前9時〜午後4時。月火、12月29日〜1月3日休館。会期中の土曜午後1時半から史料の説明と、12月18日(日)午後1時半から研修室で解説を行う。無料。同市生涯学習課(0736・77・2511)。

写真=史料の整理を進める梅田さん(左)と岩鶴さん

(ニュース和歌山2016年12月3日号)