2017012801-obiinaka 江戸時代から続く老舗書店、帯伊書店(和歌山市元寺町)の歩みをつづった『帯伊書店ものがたり 紀伊国名所図会とともに』が11日、同書店から発行された。同書店と親交の深い和歌山地方史研究会の江本英雄さん(65)が執筆。材木商から転じ本屋を創業した7代目の髙市志友(しゆう)、近世紀州を語る際に欠かせない地誌『紀伊国名所図会』出版、明治から戦後へと200年を超える歴史を掘り下げている。

 帯伊書店は1619年、初代紀州藩主、徳川頼宣に従い紀州入りした御用商人がルーツ。帯屋の屋号で材木商をしていたが、7代目の志友が本屋を開業した。1780年に京都で『都名所図会』が人気を集め、『紀伊国名所図会』の編さんに乗り出し、初編を1811年に出版。志友の死後は刊行を藩が引き継ぎ、紀州の名所旧跡を絵で紹介した23冊は今も郷土史料として揺るぎない価値を誇っている。

 江本さんは、13代目の故・髙市績(いさお)さんと親2017012801_emotosan交が深く、『紀伊国名所図会』出版の背景を研究していた。晩年、体調を崩した績さんに、績さんが元気な間に研究を完成できないとわびると、「帯屋の研究をしてくれるなら、それでもいい」と託され、亡き後も研究を進めた。

 その中、績さんの妻、喜美さん(82)から「今のうちに帯伊書店の歴史をまとめておきたい」と執筆依頼を受け、約10年かけ完成させた。

 帯屋の史料は少なく、「たぐるロープがないまま、山を登るような作業でした」と江本さん。志友以前の帯屋をたどり、志友についても8歳で江戸へ奉公に出され、両親を亡くし、20歳を過ぎ帰郷した生い立ちを描いた。謎だった晩年も新史料から新説を展開した。

2017012801_meisyo 紀伊国名所図会の出版過程、歴代店主の苦闘もつぶさに記した。全国各地にある名所図会の多くは依頼を受けた筆者が書いているが、志友は自ら取材、執筆を担った。江本さんは「本屋が自ら書いた例はありません。志友は『紀伊続風土記』の編さんにかかわるなど素養があった。この『紀伊国名所図会』が今に至る帯伊書店ののれんを支えた」。

 先代の績さんについては「新志友(いましゆう)」として章をさいた。戦後の焼け野原から店を復興させ、研究者による家蔵史料調査にも協力。晩年は『江戸時代紀州若山出版者出版物集覧』など和歌山に関連する出版目録づくりに情熱を傾け、出版研究の入口を開いた功績を振り返った。

 14代目の髙市健次社長(64)は「『紀伊国名所図会』は戦後研究が進んだが、この本でさらに研究が深まれば。先代が果たした出版文化への貢献も知ってほしい」。妻の知佳子さん(61)は「父が残された版木など史料を整えていてくれたので今に伝わった。記録に残ってうれしい」と喜ぶ。

 監修の県立文書館、須山高明さんは「写真、古文書と力を入れて集め、特に『紀伊国名所図会』の成立にしっかりと考証を加えた力作。志友の姿勢が伝統となり、績さんの仕事へと引き継がれたのが分かる」と評価。江本さんは「研究はまだ途上。『紀伊国名所図会』に描かれた内容の分析なども進めたい」と望んでいる。

 A5判、356㌻。3000円。帯伊書店で販売。同書店(073・422・0441)

写真上=中央は14代目髙市健次社長、左は妻の知佳子さん、右は川端正敏専務/同中=著者の江本英雄さん/同下=紀伊国名所図会

                          (2017年1月28日更新)