全国的にめずらしい無農薬でのいちご栽培に、紀の川市貴志川町神戸の奥田恵和さん(43)が挑んでいる。6年前に大阪から来て、農園に勤めながら技術と知識を身に付け、3年前に独立した。今は生産量が限られることから、大阪と兵庫の特約店での販売と登録会員への配達のみ。「病気のため、農薬を使った農作物は食べられないという人もいます。栽培量を増やし、和歌山の皆さんにも味わってもらいたい」と思い描く。

 貴志川町某所に借りた畑。甘い香りが広がるビニールハウス内に、いちごが一株ずつ植えられた鉢がずらりと並ぶ。「鉢を使うのは、都市部のレストランやホテルなどでいちご狩りを楽しんでもらうため。病気が出た苗を離しやすいとのメリットもあります」。鉢の中には、土より保水力のある天然ココナッツヤシから作った粉。ここでしっかり完熟させてから出荷する。

 出身は大阪府堺市。府立工業高等専門学校で機械工学を学び、関西電力で15年間、火力発電の熱効率向上のための研究や給水系設備のエネルギーに関する業務に携わった。「熱効率を上げる=空気をきれいにすること。水についての知識も身に付ける中、環境問題として水の方に興味が移りました。水質汚染の原因の1つが農薬と考えたんです」。

 転職を決意し、貴志川町内のいちご農園で修行した。2014年に独立し、最初のシーズンは大きな病気もなく、順調に育ったが、2年目はうどんこ病に悩まされた。そこで生きたのが、関電時代に身に付けた熱に関する知識。太陽熱と温水熱を活用し、殺菌を行った。

 3年目となる今シーズンは大きな決断を迫られた。先枯れ病で苗が次々に枯れた。熱殺菌も効果が低く、着目したのが殺菌効果のある食酢。「でも、酢は特定農薬(※)に指定されており、安全ですが、使うと〝無農薬〟とうたえなくなるんです」。悩んだ末、インターネット上の交流サイト、フェイスブックで意見を募ったところ、8割以上の人から「酢を使ったものなら買う」との回答が寄せられた。

 使用したのはいちごを含むバラ科の植物に効果が高いリンゴ酢。無農薬栽培のリンゴを天然醸造させた酢を京都から取り寄せるこだわりを見せる。収穫量は前年の3割ほどになったが、心待ちにするファンに今年も無事届けられた。

 販売する際の商品名は、〝幸せ苺(いちご)〟。「この名前、妊娠中の看護師さんがつけてくれたんです。『このいちごを食べると幸せな気持ちに包まれる』って」。〝娘〟と呼ぶほど愛情を注ぐいちごで笑顔を増やすのが夢だ。

 出荷は4月下旬までの見込み。希望者は「奥田恵和」フェイスブックへメッセージを送る。

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(※)特定農薬…農薬登録しなくても使える安全性が認められたもの。食酢、重曹など5種類が指定されている。

(ニュース和歌山より。2017年3月25日更新)