おはなし一輪
身近な“良さ”探し
       
 2年前から朝の日課にしていることがあります。片男波海岸の散歩です。午前6時半になると車に愛犬を乗せ、JR和歌山駅近くの自宅を出発します。海は1年を通じ、びっくりするほどたくさんの色合いを見せてくれます。大漁旗を風になびかせて港に戻る漁船も生き生きとしています。海を見ているだけで元気になります。でも、こんなに思えるようになったのは、今、店を開いている登録有形文化財の西本ビルと出合ってからです。
 初めて訪れたのは3年前。自宅近くで開いていた和食器店の移転先を探している時、不動産屋で西本ビルを借りられると聞き、足を運びました。当時、1階と2階には事務所が入っていたため、何もなかった最上階の3階に上がりました。吸い込まれるように階段を駆け上がり、360度、光に包まれた空間を見た瞬間です。「こんな奇跡的な場所が…」。動けませんでした。空間の持つパワーに圧倒されました。
 「この場所でチャレンジしたい」。2005年4月から1階で和食器店を始めました。また、3階の空きスペースを使い、様々なアーティストによるTシャツ展や、講演会、ライブ、陶芸展などを企画し、ビル全体を盛り上げようと取り組みました。昨年6月からは2階でカフェも始めました。
 実際、中に入ると、築100年近い建物ですから、雨漏りはするし、床にもあちこちにひびが…。いろいろ手を加えたいとも思いましたが、そのお金がありません。考えた結果、ひび割れた床も、木枠の窓もそのまま生かすことにしました。うれしいことに、タイムスリップしたかのような空間を訪れたお客さんから「本当にこんな場所があるんですね」との声をよくかけていただきます。身近にありそうでなかった世界を提供する、それが私の使命だと感じるようになりました。
 苦労しながらビルを運営する中で、本当の良さって何かな?と考える機会が増えました。思うのは、それぞれが今持っているものの中に実はすばらしさがあるということ。子どものころから知っているはずの片男波もそうでした。見慣れた和歌山城、すすき広がる生石高原もそう。それぞれが持つ笑顔だって同じです。見つめ直したり、角度を変えたりするだけで輝く場所やものが和歌山にはたくさんあります。そんなところに光を当てるのが大事なのかなと、最近、考えています。    (和歌山市 半田雅義)