県内外で約3万発、県内で打ち上がる花火の約7割を一夏で打ち上げる紀州煙火。藪田さゆり社長(49)と、父親で先代の善助さん(71)を中心に、職人約20人で切り盛りする。さゆり社長の祖父、善一さん(故人)は、黒潮国体で昼花火を手がけ、善助さんは音楽と組み合わせた花火や遠隔点火花火など、新しい手法を取り入れてきた。祖父と父の背中を見て育ったさゆり社長も、女性花火師として研さんを積み、新作花火大会で入賞している。
「花火は一瞬に開き、一瞬に消える。印象でしか残らないのが魅力」とさゆり社長。常に新しい印象を客に持ち帰ってもらおうと毎年、新作花火を開発し、昨年は通常より強く光る赤い花火を製作。花火師の大会では、だ円形のオレンジ色に緑色のヘタを付けたみかん型の花火も打ち上げた。「温泉マークやパンダも作ってみたい」と創作意欲は尽きない。
風向きや地形に合わせた演出をできるのが地元業者の強み。海辺の会場では、水面の花火が映えるよう長く燃え続ける玉を、街中では騒音や火事に配慮して小型の花火を連発する。主催者からのリクエストにも合わせ「COOL」がテーマなら青系を中心に、しっとりとした雰囲気ならゆっくりと開いて光が残る花火を多くするなど演出は多彩だ。さゆり社長は「経験と思いを詰めた花火を『美しかった』と喜んでもらえるのが一番うれしい。飽きさせない花火と見せ方を追究していきたい」と話している。
写真上から=紀州煙火の作品(有田川町のあらぎ島で)、藪田さゆり社長
①星作り…花火が上空で開いた際に火が付いて飛び散る火薬の塊を「星」と呼ぶ。ポイントは星を作る際に塗り重ねる薬品。銅は青、バリウムは緑、ストロンチウムは赤…。毎年、薬品の産地の状況で成分が微妙に変わるため、その年の一番良い色を職人が選ぶ。
②玉込み…天日で干した星を輪やリボン、顔 などの形に開くよう半球に込め、球の中央に火薬を詰める。真ん中の火薬が爆発すれば、込めた星の形に花火が開く仕組みだ。「機械には到底できない作業です」と善助さん。経験と根気のいる作業が続く。
③玉貼り…星が詰まった半球同士を組み合わせ、クラフト紙を貼り重ねる。厚く貼ると、中で火薬が爆発した際に球内の圧力が高まるため星が大きく飛び、薄いとあまり飛ばない。美しい円を作るには厚すぎず薄すぎず、微妙な貼り重ね具合が大切だ。
写真下=仕上げのクラフト紙貼り
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