わがスクリーン遍歴
      
65.熱砂の誓い

     
李香蘭と汪洋 時代は少々前後するが、関連性があるのでお許し願いたい。今日は長谷川一夫と李香蘭のコンビ作品「白蘭の歌」(昭14・東宝・渡辺邦男監督)、「支那の夜」(昭15・東宝・伏見修監督)、「熱砂の誓い」(昭15・東宝・渡辺邦男監督)の3本をまとめて紹介する。
 「白蘭の歌」は満州(現中国東北部)に長期ロケを行った作品で、満鉄(南満州鉄道株式会社)の少壮技師(長谷川一夫)と満州の富豪の娘(李香蘭)とのラブ・ロマンスが爆発的な人気を呼んだ。
 これに味をしめた東宝は、同じコンビで引き続き「支那の夜」「熱砂の誓い」を制作した。「支那の夜」は上海をバックに、貨物船の船員の長谷川一夫が、中国娘の李香蘭を救い、ふたりの間に恋が芽生えるというもの。「熱砂の誓い」は北京が舞台で、長谷川の土木技師に対し、李香蘭は日本へ声楽の勉強に来ている学者の娘というお膳立てで、いずれも「白蘭の歌」の二番煎じの感は免れなかったが、あとの2作も記録的な大当たりとなった。
 また3作の主題歌も大当たりした。「白蘭の歌」は伊藤久男と二葉あき子のデュエットでヒットした。「支那の夜」の主題歌「蘇州夜曲」の、渡辺はま子の嫋々(じょうじょう)たる美声はまさに一世を風靡した。「熱砂の誓い」の主題歌「紅い睡蓮」は、李香蘭自ら吹き込んだ。ご記憶を呼び起こすために歌詞もご紹介したいが、スペースがなくて残念である。
 この3大ヒット作品のうち、私はとくに「熱砂の誓い」に心惹かれていた。李香蘭と共演した汪洋(わんやん)が素晴らしかったからである。彼女は中華電影公司のスターで、李香蘭と共演した「エノケンの孫悟空」(昭15・東宝・山本嘉次郎監督)が日本でのデビューだった。テレサ・テンに似た、エキゾティックな魅力あふれる女性で、「熱砂の誓い」では李香蘭の従妹に扮していたが、私ばかりでなく、当時の若者たちの間でも人気があった。太平洋戦争勃発後、スクリーンから姿を消したが、どうしておられることだろうか。
 李香蘭は満映(満州映画協会)の出身。戦後、日本人山口淑子と知ってショックだった。その後も数々の映画に出演したが、「暁の脱走」(昭25・新東宝・谷口千吉監督)で池部良の三上一等兵と熱烈な恋に落ち、ふたりで脱走をはかって、上官に射殺された娼婦役が心に残る。昭和49年、政界に転出してからのことは、読者諸賢のほうがよくご存じだろう。

(初出昭和63/11・30)

写真=「熱砂の誓い」の李香蘭(山口淑子)と汪洋〉