巳歳の新春をつつがなくお迎えのことと存じ上げます。今年もよろしくご支援の程をお願い申し上げます。
さて、巳歳にちなんで、蛇といえばやっぱり「蛇姫様」(昭15・東宝・衣笠貞之助監督)を思い出す。主題歌「お島千太郎の唄」(春の風に 散りゆく花か…)は、いまでもときどきカラオケで歌われていてなじみ深い。
檜屋千太郎(長谷川一夫)と、旅役者一座のお島(山田五十鈴)との恋を中心に、烏山藩のお家騒動を扱った川口松太郎先生の原作を、長谷川一夫、山田五十鈴、大河内伝次郎、入江たか子、原節子、山根寿子などの豪華キャストで映画化したこの作品は、当時興行面でも記録的なヒットとなった。
といっても、私は3、4カ月後に制作された続編だけしか見ていないので、どこで蛇がからんでいたのか、さっぱり記憶がない。やはりここは既述の興津要先生のご著書に頼らざるを得ない。
「……料亭の息子でありながら、剣の達人、しかも女にまごう美男で、女形にも身をやつすという雪之丞ばりの千太郎、彼に配するに美貌で献身的なお島――この2人の主人公の背景に横たわるお家騒動、仇討ちという娯楽小説の公式、物語をいろどる美貌の琴姫(入江たか子)、琴姫に忠誠をつくして命を捧げる薄幸のおすが(山根寿子)、義侠の市川十蔵、さらに剣豪植原一刀斉(大河内伝次郎)の八面六臂の大活躍、しかも旅役者一座の哀愁、からすへびの怪奇など道具立ても手が込んでおり、太平洋戦争突入寸前の代表的長編時代小説として記憶さるべき作品だった……」(興津要著「写真で見る大衆文学事典」より引用)
さらに詳しく読むと、からす蛇は非業の死を遂げた千太郎の妹おすがの霊となって、悪人にまつわりついたらしい。どうもはっきりした記憶がないが、烏山藩に平和が戻り、琴姫が好きな千太郎と別れて、この町を去って行く場面だったか、「いいなあ、いい男はもてて…」と、長谷川一夫にちょっと妬み心を感じたのを覚えている。私もまだ若かった。
その後、「蛇姫様」は大映や東映で、市川雷蔵、東千代之助、美空ひばりなどの主演で再映画化されているから、ご記憶の方もあろう。
この映画を見て数カ月後、昭和15年の晩秋に、紀元2600年の式典並びに祝賀会が、皇居前広場で開催された。陰鬱な世相の中の束の間の祝典だったが、何か虚ろな響きを感じた。
(初出昭和63/1・11)
〈写真=「蛇姫様」の長谷川一夫と山田五十鈴〉
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