わがスクリーン遍歴
      
11.王将

     
水戸光子 今日は「王将」(昭23・大映・伊藤大輔監督)である。「王将」といえば、村田英雄の「吹けば飛ぶような将棋の駒に……」を想起される方も多いだろうが、この曲がヒットしたのは昭和47、8年の頃で、この映画とは関係がない。
 「王将」は新国劇が昭和22年に初演、好評を博したもので、原作は北条秀司先生。無学で、貧しく、粗野ながら純粋な主人公・坂田三吉には先日亡くなった辰巳柳太郎、女房の小春には小夜福子、娘の玉枝には香川桂子、そして宿敵関根名人には島田正悟が扮した。その直後、大映の映画化が決定、これまた空前の大ヒットとなったわけである。
 映画では、主演の坂田三吉はもちろん阪東妻三郎、小春には松竹大船の水戸光子、玉枝には三条美紀、そして関根名人には滝沢修が扮し、それぞれ素晴らしい演技を見せた。そのほか、大友柳太郎や三島雅夫なども出演していたが、今はこの世にいない。
 明治39年、大阪天王寺付近の崖下の長屋住まいで麻草履を作っていた坂田三吉は、3度の飯より将棋が好きで、それが滅法強い。好きな将棋とあればどこへでも出かけて行く。そのために家計は火の車で、家財など何もない。女房の小春は青色吐息の毎日である。
 今日も今日とて将棋大会に出る会費を工面するのに、娘(子役、奈加テルコ)の一張羅の晴れ着を質入れするに及んで、小春は今はこれまでと娘を連れて鉄道自殺を図るが、自分がいなくなった後の三吉のことを案じて、やっとのことで思いとどまる。「もう将棋はキッパリ止める」という三吉に、「いっそやるなら日本一の将棋さしになりなはれ」と逆に激励する小春。そして後は、この妻子の援助で宿敵と対決するというご存知のストーリーが展開されるが、長くなるので割愛する。
 ラストの小春の危篤を伝える電話シーンは、阪妻の名演技もあって観客の涙を誘った。「小春、待っててや、死んだらあかんで」という阪妻のセリフ、いまだに耳に残っている。
 戦前戦中を通じ、ここでは阪妻のスチールは随分と紹介してきたので、今日は趣向を変えて女房の小春の水戸光子に登場を願うことにした。
 既に申し上げたが、水戸光子は「暖流」(昭14・松竹・吉村公三郎監督)の石渡ぎん役で一躍スターダムにのし上がった大船の名花である。「戦争と人間・完結編」(昭48・日活・山本薩夫監督)を最後に銀幕を去り、その後まもなく死亡した。没年不詳でもうしわけない。(本稿は御園京平氏著「写真阪妻映画」を参照した)  

(初出平成元/9・6)

※水戸光子は1981年没(ニュース和歌山編)

 〈写真=「王将」の水戸光子〉