全国各地の城に詳しい水島大二さんの著書『ふるさと和歌山城』を3月1日にニュース和歌山から発行しました。2017年3月に始まった連載「ふるさと和歌山城」に加筆し、新たな内容を盛り込みました。「和歌山城は和歌山の歴史遺産ですが、『ふるさと和歌山城』も今後ずっと読み継がれる財産になりそう」と同業者からも評価の声を頂きました。

 実は和歌山城だけを扱った書籍は多くありません。思い浮かぶところでは松田茂樹さん『和歌山城史話』、読売新聞和歌山支局の『和歌山城物語』、わかやま絵本の会による『知ろう歩こう和歌山城』。城下町全体を視野に入れた三尾功さんの著作群も忘れてはなりません。しかし、とっつきやすく、最新の研究成果をふまえた「和歌山城入門」のような本がないのを不思議に思っていました。

 著者の水島さんは日本城郭史学会委員で、和歌山城はもちろん県内外の城郭に詳しく、しかも近年は「和歌山城で学ぶお城講座」で、一般の人を対象に現地でお城の魅力をやさしく解説されています。この感じを一冊にまとめられれば、和歌山に暮らしながら城をなんとなく眺めている人はもとより、県外の城郭ファンの人にも届き、和歌山城、和歌山に深い関心を抱いてもらえると考えました。

 本編となる50のトピックは「羽柴から紀州徳川家へ」「石垣」「城内・城門、城下町」「天守」「変わる城郭 残る面影」とテーマ別に分けられ、写真や史料をできるだけ盛り込みコンパクトです。どこからでも読め、どこからでも和歌山城に分け入れるのがこの本の大きな特色です。水島さんは「お城には多くの人の知恵と努力、工夫が隠れています。守り、崩れない石垣、威厳…それぞれの知恵があります。本を手に現地を巡り、新しい和歌山城を見つけ、他の城にも興味を持ってほしい」と望みます。

 ふるさとは語られた時、目前に現れ、語り合ってこそ心に根を下ろします。同書を手に親子で仲間で歩く。そんなひと時を持てば、お城は史跡であることを越え、〝愛郷心をわきたたせる力〟になるでしょう。書名の「ふるさと」にはそんな願いを込めています。 (髙垣善信・本紙主筆)

(ニュース和歌山/2020年3月7日更新)