和歌山城の天守や櫓などの屋根に「鯱(しゃち)」が据えられています。口を開けた雄が「阿」、閉じた雌が「吽」で、雌雄の阿吽の呼吸で、建物を火災から守っています。

 「鯱」は海に住むところから防火の効力がある「水の神」と崇め、一般的には、頭は虎、背は魚の想像上の海獣として、大棟の両端に飾られています。しかし、時代が下るほど鰭(ひれ)の形や数など微妙な違いで雄、雌を表現するようになり、見た目では、雌雄の違いが分からなくなっていきます。鱗(うろこ)の彫り方にしても立体感がなくなり、平面的な筋状になるなど形式的なものとして、簡略化されていきます。

 鯱の容姿は、細見やずんぐり型、背の長短、顔や頭の形など全国の城郭に瓜二つのものはありません。和歌山城の鯱においても同様で、現在の天守などに載る鯱の雌雄を見分けるのは大変難しいですが、独特の容姿は今も受け継がれています。

 嘉永3年(1850)再建時、乾櫓に載っていたとされる青銅製の鯱が、頭部と胴体を外した形で、現代版の鯱と並べて和歌山城天守閣に展示されています。その両者を見比べると違いがよく分かりますが、頭部がカッパのような皿状になっている独特の形状は、大きさの違いはあっても引き継がれていることが分かります。その容姿は、寺社の「手水舎」に、水をつかさどる神として、龍をかたどった蛇口から水が流れ出ているその龍の頭部とよく似ています。頭部をめぐる下向きの飾りを上に折り曲げると和歌山城鯱の頭部になります。