地元出身 佐竹幸さん 最後の生産者に作り方学ぶ

 加太の漁師が家業の一つとしていた平(ひら)わかめ作りが6日と7日、加太北の浜公園で行われた。加太で生まれ育った佐竹幸(さち)さんが、漁協に卸していた最後の生産者、磯野多喜子さんに依頼して実現。佐竹さんは「加太の食文化に関心があったので、うれしい。単に作り方を知りたいのではなく、漁師の家業としていた最後の一人から聞くことに意義があります」と声を弾ませる。

乾燥させた平わかめを手に笑顔を見せる佐竹さん(左)

 平わかめは、わらで作ったこもの上にわかめを広げて干し、板のりのようにしたもの。地元の人はこれに酢飯を乗せ、しょう油を混ぜたかつおぶしと細切りにしたたくあんを巻いて丸かぶりする。温かい米を乗せると一瞬で鮮やかな緑色になり、のりとは違う塩気と磯の風味が特徴。数十年前に磯野さんが引退した後は家業とする漁師はなく、今は自家用に作る人がちらほら残る程度だ。

 佐竹さんは2020年、音楽ユニット「海藻ズ」を結成し、加太の海藻をテーマにした曲をユーチューブで発信してきた。自身が開く絵画教室の生徒、磯野さんから、「家のわかめ倉庫で平わかめを作っていた」と聞き、体験したいと相談。「そんな簡単なもんとちゃう」と断られ続けたが、何度も説得し実現した。

 6日、漁師が獲ってきたわかめをこもの上へ並べ、茎に近いところを外側にし、内側に葉を重ねた。翌7日は朝から天日干し。乾燥しすぎて曲がったり割れたりしないよう目を配り、すき間にわかめを追加する。乾燥後にこもから外してカットしたら完成。「わかめは気難しいんや。ああせえ、こうせえ言うてくる」「昔はこも200枚を毎年手作りしていた。9月から始め、正月までかかってた」。手を動かしながら話す磯野さんの言葉に、佐竹さんは真剣に耳を傾けた。

 次世代に伝えたいと佐竹さんは14日、わかめの養殖に取り組む加太小学校6年生に、平わかめの作り方や加太の食文化、暮らしを説明。この後、児童らと平わかめで巻き寿司を作って食べた。佐竹さんは「とても手間がかかると分かり、簡単に復活とは言えないが、地域に根付いていたかつての暮らしや文化を掘り起こしたかった。後世へと発信する方法を考えたい」と話していた。

 

(ニュース和歌山/2022年3月19日更新)