探究学習の成果を披露する「三菱みらい育成財団 高校生MIRAI万博」が7月31日㊍、大阪・関西万博EXPOホール「シャインハット」で開かれ、最優秀賞に選ばれた和歌山信愛高校3年の中尾姫那さん(写真)が「次世代メイクブラシ」を発表した。動物の毛を使わず、かつ環境負荷の軽減を目指した〝美〟と〝倫理〟の融合アイテム。将来は起業し、「世界に新しい価値観を広げたい」と前を見据える。
二つの課題解決
化粧に使うメイクブラシには「天然毛」と呼ばれる動物の毛と、ナイロンやポリエステルなど人工材料の合成毛がある。
それらの課題に気づいたのは昨年、美容サロンを経営する母親との会話で「動物の毛かどうかお客様から質問があった」と聞いたのがきっかけ。留学先のニュージーランドで学んだ動物産業の実態を思い出し、天然毛は倫理面で問題があると感じた。一方、石油由来の合成毛は環境負荷が懸念される。「それなら、両方の問題を解決できるメイクブラシを作ろう」とひらめいた。
学校では探究型授業を導入した「iコース」に所属し、課題や疑問を深掘りする姿勢が身についている。早速、抜群の行動力とバイタリティでスタートを切った。
まずは動物毛以外の素材を確保しようと、フェイクファーを製造する橋本市の岡田織物に足を運び、合成繊維の糸を提供してもらった。次に、広島県の熊野筆事業協同組合に連絡を取り、この糸がメイクブラシに使えるか確認を依頼。「動物毛のように先が細くなっていないため難しい」との回答が届くと、「じゃあ、伸ばして細くすればいいのでは」と、県工業技術センターで熱と重りを使って糸を引っ張る実験を行ってもらった。しかし、もともと伸びる材質でなかったため、期待通りの結果は得られなかった。
八方ふさがり、でも、諦めない。再度、岡田織物へ出向き「どうしても作りたい。細くて柔らかい糸はありませんか」と重ねて訴えた。熱意に押された岡田次弘社長、「何とか協力してあげたい」と、業務の合間をぬって様々な糸を比較検討。しなやかで細いストロー状の「中空繊維」を探しだし、郵送した。
待望の糸を手に入れた中尾さん。自分のブラシから毛を抜き、そこに中空繊維をはめ、型を整えた。動物の毛を使わない、〝美〟と〝倫理〟が融合した、記念すべき試作品が誕生した。
新時代の基本に
7月31日㊍、大阪・関西万博で開かれた「三菱みらい育成財団 高校生MIRAI万博」は、同財団が助成する全国の高校から1925人がエントリー。「次世代メイクブラシ」は最優秀賞6チームの1つに選ばれ、発表の機会を得た。
壇上では企業や団体の協力を得ながら挑戦した道のりを紹介。ただ試作品は、動物の毛を使っていないものの合成繊維であることから、次の段階として「備長炭とポリマーを合わせた新素材を開発し、さらなる環境負荷の低減を目指す」と述べた。最後に、将来起業し、このメイクブラシを日本で高級品として販売。その利益を元に、化粧文化の拡大が見込まれる発展途上国に安価で提供し、「環境に優しいメイクブラシが『基本』であるという価値観を世界に広げたい」と笑顔で宣言。大きな拍手を浴びた。
「最初は緊張していたけれど会場の雰囲気が温かく、『もう一度戻りたい』と思うくらい楽しめました」と目を輝かせながら振り返る中尾さん。自分の言葉で生き生きと発表する姿に、観客から「たった一人でここまでやり遂げたことに驚いた」「人に協力を得られる点がすばらしい」「着眼点が秀逸」「ぜひ使ってみたい」など、賞賛の声が多数寄せられた。
指導する担任の大村寛之教諭は「人を惹きつけ、周囲を巻き込む力に優れている」と評価。中尾さんは「失敗と成功から新しい知識を得られることが探究活動の魅力。失敗しても続けていれば、結果が出る時が来ます」と力を込める。大学進学後も引き続き次世代メイクブラシの研究、改良に取り組み、「最終的には素材が土に還る、環境負荷ゼロの商品を開発したい」と前を向いている。
(ニュース和歌山/2025年10月11日更新)




























