力と力がぶつかり合うアームレスリングに取り組み始めたのは、40歳を過ぎてから。「強くなりたい」一心で地道なトレーニングを積み重ね、長年、頂点を目指し続けてきた。そしてついに今年7月、宮崎県で開催された全国大会を制し、世界大会への出場権を獲得。還暦を迎えてなおエネルギッシュに活躍する姿に迫る。

世界最速競技

 アームレスリングといえば、友人と遊びで興ずる腕相撲をイメージしがちだが、国際的な統一ルールの下で行われるれっきとしたスポーツ。専用の競技台上では「レディー、ゴー」の掛け声を合図に、瞬きさえも許されない数秒で雌雄を決する。「世界最速の格闘技」と称されている所以だ。

丸太のような上腕で力勝負に持ち込む「噛み手」という技が得意

 日本ではマイナースポーツだが、海外にはプロリーグが存在し、世界選手権などの大規模な競技会が開催されているほど熱気を帯びている。

敗戦をバネに

 若いころは水泳やテニスで汗を流し、自宅での筋トレを欠かさず続けてきた。仲間との腕相撲でもほとんど負けたことがなく、42歳で競技を開始したときも自信があった。

 ところが、「勝てるだろう」と気軽にエントリーした地域の大会で初戦敗退を喫した。応援する子どもの目の前での敗戦にショックを隠し切れず、その日のうちに大会主催者に連絡を取り、関係者を通じて和歌山市のアームレスリング団体「鉄腕紀州」に入団した。

 負けず嫌いで1つのことにのめり込む性格。平日は退勤後にジムで2時間トレーニングに励む。胸筋、背筋、肩、脚など全身の筋トレを終えた後に、勝負を決する上で重要な右腕の手首や指を重点的に鍛える。

   自慢の右腕と優勝メダルを胸に

 土曜は和歌山市民体育館で鉄腕紀州のメンバーと実戦形式の練習に取り組む。選手たちとは互いにアドバイスを送り合う間柄。真剣な中にも和気あいあいとしたムードが漂う。「テクニックもスピードも重要ですが、アームレスリングに大切なのは『パワー』です。白ご飯と好きな肉をたっぷり食べて試合に臨んでいます」と笑う。

日本一は通過点

 7月に宮崎県で開催された第31回JAWA全日本マスターズアームレスリング選手権。全国から猛者たちが集結した男子シニアグランドマスターズ60歳以上ライトハンド75㎏の部に出場した。

 大会は、本戦トーナメントを勝ち上がった選手と敗者復活戦を制した選手が、決勝戦で争うダブルイルミネーションというルールで行われた。危なげなく本戦を勝ち上がり、迎えた対戦相手は岡村文雄選手(宮崎県日向市)。2023年に世界チャンピオンに輝いた格上だが、乗り越えるべき壁だ。

 試合開始すぐ王者の圧力が勝り、攻め手を防がれてしまう。一度止められると巻き返すのは至難の業だが、もう一段ギアを上げてチャンプの右腕を力強く押し返し、勝負を決めた。

 待望だった全国大会初優勝。しかし浮ついた気持ちは微塵もない。「来年秋に開催される世界アームレスリング選手権大会への出場権を得られてほっとしましたが、優勝はあくまで通過点です」と身を引き締める。

 2018年に選抜出場したトルコでの世界大会は残念な結果に終わったので、リベンジの機会がついに到来する。「今度こそは世界チャンピオンをめざします」と拳を強く握りしめた。

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鉄腕紀州ではメンバー募集中。
木戸さん(090・5059・7699、メールmr.doubunn-k6@docomo.ne.jp)。

(ニュース和歌山/2025年11月1日更新)