「3月で30周年。和食でもラーメンでも、自分のやりたいことを信じて歩んできました」。そう語るのは、和歌山市本町で「京橋 幸太郎」を営む谷奥幸一郎さん(58)。和食の料理人として修業を積んだ後、同市で割烹(かっぽう)をオープンし、現在は人気ラーメン店の店主に。「日本料理人が作る一杯」へ込めた思いについて尋ねました。

 

和食から転身

──最初は割烹の店だったそうですね。

 「中学卒業後、大阪、奈良、京都の割烹で修業を積み、28歳で和歌山市六十谷に『うまいもん処 幸太郎』を開きました。小さな居酒屋でしたが、和歌山で捕れた天然の魚のみを使用し、地元の人に愛されていました」

──その後、どうしてラーメン店に?

 「1999年、アロチに移り、念願の割烹を開きました。2年後、酒を飲んだ人はシメのラーメンが食べたくなるだろうと、営業後の深夜0時からラーメン屋を始めたんです。当然ラーメンの修業をしたわけではないですが、和食は特に繊細な味覚が必要なので、味の分析に自信がありました。1ヵ月かけて和歌山ラーメンが完成。シメ用に少し濃いめの味付けにし、多い日は一日に300人来ることもありました。そのうち、『本格的にラーメン屋やれば?』との声が増えてきて一念発起し、2003年に今の場所でラーメン屋として再出発しました」

 

充実の一品料理

──特徴は?

 「定番の幸太郎ラーメンは豚骨しょう油です。普通、スープを作るときは、鍋に豚骨や鶏ガラ、水を入れ、長時間煮ますが、うちは骨をさっと湯がいて取り出し、一度洗ってもう一度ゆでます。すると臭みが消え、コクがありながらもスッキリとしたスープになるんです。具はシンプルに、豚バラで作った特製チャーシューとメンマ、ネギ。コシのある細めんを使い、スープがよく絡みますが後味がしつこくないので一気に食べられますよ。シンプルなしょう油ラーメンや塩ラーメン、つけめんもあります」

──ラーメン以外にどんなメニューが?

 「普通のラーメン屋にはない、お造りや握り、日によっては天ぷらなど一品料理が豊富です。中でも、『想像絶する鯖(さば)寿司』(写真)が人気ですね。和歌山ラーメンのお供に、定番のはや寿司を作ろうとしましたが、もっとオリジナリティを出したいと思い、あえて握り寿司にしました。ほぼ毎朝、知り合いの漁師から生きのいい魚を仕入れているので、鮮度抜群、身がプリプリです」

──形を変えながらも30年間続けられた理由は?

 「『日本料理の職人がラーメン屋をするなんて』と言われながらも、家族や友人たち、割烹時代からの常連さんも理解し、協力してくれてここまで来ました。どんな店でもお客さんにおいしいものを提供したい気持ちは変わっていません」

──今後は?

 「ハモで出汁をとったスープでラーメンを作りたいですね。ゆっくり煮込むと、透明でとても繊細な魚の風味が出てくるんです。料理人としてのゴールは、自分が釣った魚で料理を提供する完全予約制の小さな店を開くこと。最初に六十谷でオープンしたような原点回帰が目標ですね」

 

【京橋 幸太郎】
和歌山市本町1−1
17時半〜深夜0時
※㊍〜㊐は11時半〜14時半も
㊊休み
☎073-432-9399

(ニュース和歌山/2021年4月3日更新)