10月 東京で演奏会開催
〝音楽の殿様〟と呼ばれるほど西洋音楽に精通していた紀州徳川家第16代当主、徳川頼貞。彼が集めた世界中の音楽にまつわる資料約2万点が、和歌山市西高松の県立図書館1階、南葵音楽文庫に所蔵されている。この貴重なコレクションを多くの人に知ってもらおうと今年4月、有志によって「南葵音楽文庫普及会」が結成された。
同文庫は頼貞が父、頼倫が設立した私設図書館「南葵文庫」に音楽部門を附設したことから始まる。
1923年の関東大震災発生直後、頼倫は一部を除く同文庫を東京帝国大学に寄贈。頼貞は残された音楽部門を継承し、自身が私財を投じて集めた西洋音楽書や楽譜などを公開する「南葵音楽文庫」を開設した。しかし32年、財務危機に陥り活動を休止。さらには第二次世界大戦時の混乱で、コレクションがしばらく行方不明に。その後、時を経て60年代半ば、福島県の倉庫で発見され、67年に再び人々の前に姿を現した。
77年以降は読売日本交響楽団が所有。2016年にすべての資料が紀州徳川家ゆかりの地である和歌山県に寄託され、県立図書館が管理することになった。翌年、「南葵音楽文庫閲覧室」がオープン。世界の音楽関係者から問い合わせが来るほど珍しい資料を間近で見ることができ、現在も専門家による研究や整備が進められている。
この世界的にも貴重な数々の音楽資料を広く、国内外に発信しようと、今年、普及会が結成された。会員は現在6人で、会長は同市のピアニストで相愛大学、大学院講師の宮下直子さん、名誉顧問相談役に、ヴァイオリニストで東京藝術大学名誉教授の澤和樹さんらが名を連ねる。
主な活動として、観光の活性化や地域社会の文化発展を目的とした「まちなかコンサート」を年10回開催を予定。県内だけでなく、大阪、神戸、京都などでも実施し、同文庫の周知に継続して取り組む。
また演奏だけでなく、「南葵徳川音楽塾」と題した講座も実施。大阪教育大学講師の近藤秀樹さんが「フランス音楽への誘い〜モーリス・ラヴェルを聴く」、元名古屋音楽大学教授の佐々木勉さんが「カミングス文庫収蔵ヘンリー・パーセル《ディドとエアネス》手写楽譜とブリテン」をテーマに話す。
10月には東京都台東区にある旧東京音楽学校奏楽堂で「南葵音楽図書館100年コンサート」を開催。今後2年に1度実施する。館内にあるパイプオルガンは頼貞が1918年に建設した日本初のクラシック音楽専用ホール「南葵楽堂」から移設したもので、当時の楽器を使い、南葵音楽文庫に収蔵されている名曲の数々を中心に演奏する。
宮下会長は「演奏家の立場から、所蔵されている楽譜を音にすることにこそ意味があると思い、これまでコンサートや音楽祭で普及活動をしてきました。今後は県外にも足を伸ばし、この魅力的な音楽を多くの人に届けたい」と目を輝かせる。
(ニュース和歌山/2025年7月12日更新)



























