さまざまな悩みを抱えたまま誰にも相談できず、孤立した結果、自ら死を選ぶ人が後を絶たない。自殺予防対策には医師などの専門家や精神保健福祉の相談機関、行政など多くの窓口があるが、一般の人も取り組めるのが「ゲートキーパー」だ。特別な資格は必要なく、県内では24年現在で5983人に上る。「いつもと違う」の気づきが、生きるための支援につながる。
4つの役割
厚生労働省人口動態統計によると、全国の自殺者数は1998年から2009年まで年間3万人前後の状態が続いた後、減少に転じ、近年は約2万人で推移している。和歌山県の昨年の自殺者数は140人。人口10万人あたりの「自殺死亡率」は16・1で、全国平均をわずかに下回った。
自殺の背景には、病気や生活困窮、家族関係、ハラスメント、いじめなど様々な要因が複合的に存在する。自殺に至る人は、これらの悩みを誰にも相談できずに状況が悪化。次第に心身の不調をきたし、うつやアルコール依存の状態に陥ると自殺以外の解決策が見えなくなり、命を絶つといわれる。このことから、追い込まれる前の、できるだけ早い段階で適切な支援につなげることの重要性が指摘されている。
〝命の門番〟とも呼ばれるゲートキーパーは、国の自殺予防対策の一環。自治体等が行う養成講座を受講すれば誰でもなれる。主な役割は「悩んでいる人の変化に気づき、声をかける」「じっくりと話を聴く」「専門家に相談するよう促す」「温かく見守る」の4つ。どれか一つだけでもよい。県こころの健康推進課・硲理香主任は、「県内の自殺者数が長期的に減少傾向にあるのは県民、行政機関、民間団体などが、ゲートキーパー養成をはじめとする対策 に粘り強く取り組んだ結果。今後も〝生きるための支援〟を続けたい」と語る。
自治体やNPO法人が養成講座
精神科医による解説も
和歌山の民間団体で唯一、養成講座に取り組んでいるのがNPO法人「心のSOSサポートネット」だ。ゲートキーパーを〝心の安全パトロール隊員〟と名付け、11年の立ち上げ以降、1500人超を輩出した。講師は、日赤和歌山医療センター精神科部長の東睦広理事長が務める。
初級のベーシックと上級のアドバンスを用意。ベーシックでは心の病の概要や悩んでいる人への対応、伝えてはいけない言葉などを、精神科医の知見を加え、分かりやすく解説する。「難しく考えず、コミュニケーションの基礎を学ぶような気持ちで来てくれれば」と東理事長。参加者からは「声をかける勇気が出た」「友人に『いつもと様子が違うようだけど』と言えるようになった」と前向きな声が届く。
一方で、ゲートキーパーを続けていると、悩みを聞くことが負担になることがある。そんな時は、ピアサポーターの江川友美さんが〝支える人への支援〟を担う。江川さんは12年前に双極性障害の診断を受け、仕事でつまづいた経験がある。「悩んでいる人の気持ちを代弁し、当事者の視点でアドバイスできるのが私の強み。自分が苦しんだからこそ『支える人』に寄り添いたい」と話す。
東理事長は「自殺者が減ることはもちろんですが、もっと手前のところの取り組みが大事。生きる目的を見つけたり、『生きててよかった』と思えるようなまちづくり、人づくりに取り組んでいきたい」と構想している。
【心の安全パトロール隊員(ゲートキーパー)養成講座】
ベーシック=8月24日㊐9:30〜11:30。アドバンス=同日13:00〜15:30。和歌山市手平のビッグ愛9階。無料。各50人。申し込みは、心のSOSサポートネットHPから(https://cocosapo.net)。8月22日締め切り。問メールinfo@cocosapo.net。
(ニュース和歌山/2025年8月9日更新)



























