吉岡舞香さんが最優秀賞

douwahyou ニュー ス和歌山正月号恒例の「干支が主役!創作童話コンクール」。今年はひつじをテーマに募集したところ、小中高校生から83作品が寄せられ、吉岡舞香さん(智 辯和歌山中学校3年)の「羊くんと雲」が最優秀賞に輝きました。この作品を含め、入賞したのは6作品。今号では漫画家、いわみせいじさんのイラストを添え て、吉岡さんの作品を紹介します。

  干支を主役にした創作童話コンクールも、2008年のねずみに始まり、8回目を迎えました。 審査は昨年に続き、ニュース和歌山で四コマ漫画「和歌山さんちのハッサクくん」を連載する海南市出身の漫画家、いわみせいじさん、地域で絵本の読み聞かせ を行うおはなしボランティアきいちごの代表、北裏祐子さん、一昨年に朝日学生新聞社児童文学賞を受賞した和歌山市出身の嘉成晴香さんの3人が担当しまし た。

 今年の応募者は、小学生49人、中学生3人、高校生31人の計83人。この中から心温まる吉岡さんの作品「羊くんと雲」が最優秀賞に選ばれました。吉岡さんは3度目の応募で初めての入賞です。
 なお、優秀賞はじめ、入賞した5作品は1月10日以降のニュース和歌山で順次掲載します。子どもたちの力作、どうぞお楽しみに!

羊くんと雲

iwamie

 ある村に羊くんがいました。羊くんは仲のいいやぎ君と一緒に遊びながら楽しく暮らしていました。

  しかし、そんな羊くんには、ある悩みがありました。それは、冬になるとやぎ君が遊んでくれなくなることです。実は、羊くんの住む村の動物たちは、羊くん以 外みんな寒がりで、遊ぶことができないのです。中でもやぎ君は村一番の寒がりとして有名でした。そのため、やぎ君は羊くんと遊べないのです。

  そんなある日、羊くんは、自分の毛のようなもこもこした服を着れば、寒い日でもやぎ君が遊べるようになるのではないか、と思いつきました。「ぼくの毛のよ うなもこもこした服はないかな…。あっ、あった」。羊くんは、しばらく探して見つけました。「雲だ。雲を取ってやぎ君に渡そう」

 羊くんは 雲を取ろうと、精一杯飛びはねました。しかし、雲は空高くに浮かんでいて、なかなか取れません。「どうしたの。羊くん」。すずめさんが声をかけてくれまし た。「ぼく、今、雲が欲しいんだけど、高くて取れないんだ」と羊くんが言いました。すると、「私が取ってくるわ」と言い、すずめさんは雲へ向かいました。 しばらくするとすずめさんが雲を取って降りてきてくれました。「ありがとう。助かったよ」
 羊くんは早速やぎ君のもとへ向かいました。「やぎ君。元気かい」「ああ、元気だよ。でも今日は寒すぎて遊べないよ」「この雲を着てみて。温かいと思うよ」。やぎ君は雲を着てみました。「わあ、暖かい。ありがとう」

 羊くんはやぎ君を見てあることに気が付きました。「やぎ君、僕に似ているね」。白い雲を着た白いやぎ君と、白い毛が生えている白い羊くんはそっくりでした。「本当だ。似ているね」。そして、にっこりと笑い合いました。

 やぎ君は、その日から羊くんと一緒に元気に遊べるようになりました。村のみんなも、やぎ君のように遊べるようになりたいと思い、雲を着ることが大流行しました。

  雲の色は天気や時間によって違います。また、同じ天気や時間でも形や色が少しずつ違います。ねこさんは、雨の日の空に浮かぶ小さな黒い雲を着ることにしま した。「冬の白い雪の中でも、目立つでしょ」。とら君は、夕やけの空に浮かぶ大きなオレンジ色の雲を着ることにしました。「寒い冬には、暖かい色が一番だ よ」。こうして、村のみんなは、空をよく見て、自分の好きな雲を選びました。

 「へび君の雲の色、きれいだね」「うま君の雲、めずらしい形だね」。村のみんなは雲の話で大盛り上がり。こうして、みんなは寒い冬を、話したり遊んだりしながら楽しくすごせたのでした。
 寒かった冬が過ぎ去り、春になりました。冬の間、いつもよりもたくさん話したり遊んだりした村のみんなは、さらに仲良くなりました。村は暖かくなったので、みんなで一緒に雲を空へ返そうと決めました。

  ある晴れた日の朝。みんなは同じ場所に集まりました。「雲さんたち、ありがとう」。みんなは雲をはなしました。雲はゆっくりと空へ昇っていきました。きれ いな青い空にみんなのお気に入りの色や形の雲が浮かんでいます。とてもきれいでした。みんなは空を見上げ、にっこりと笑い合ったのでした。

作者の吉岡舞香さん 個性の大切さ 作品に込め

yosioka

  「小さいころから〝小説みたいなもの〟をよく書いていました」と笑顔を見せる吉岡さん。空を見るのが好きで、「バスに乗りながら雲を見ていて、羊の形に似 ているなあ」と思ったのが、今回の作品のヒントになったそうです。様々な色や形の雲を登場させたのは、ある思いがあったから。「みんなそれぞれ良いと思っ たものが良いんだよ、一人ひとりの個性が大事なんだよということを伝えられればうれしいですね」

漫画家 いわみせいじ審査員

iwami

  今年は羊。作品には「眠れないときに数える羊」「羊の毛は雲に似ている」ことに着目したものが多かったようです。そんな中、「羊くんと雲」はその発想の1 つからスタートしているものの、構成力、創作力で非常にまとまった作品に仕上がっています。読み終えた後、作品の中の動物たちと同様に読み手も温かい気持 ちになれるのがいいですね。

おはなしボランティアきいちご代表 北裏祐子審査員

kitaura

  雲を服にして暖を取る発想がおもしろく、形や色をデザインしてみる所がすばらしいと思いました。それぞれの動物たちが気に入った雲の服を着て、楽しそうに 遊んでいる姿が目に浮かびます。そして春になり雲を空に返してあげる優しい場面がこの作品の最もすてきなところです。登場人物の会話や文体からも、思いや る気持ちが伝わってきますね。

 

児童文学作家 嘉成晴香審査員

kisei

  「やぎ君、僕に似ているね」と言った羊くん。動物たちは、それぞれぬくもりの形はちがっても、みんなで暖かな冬を喜んでいます。冬という「今」を楽しんで いる姿が、生き生きと伝わってきました。春になって空に返した雲は、きっと別の場所の友達思いのだれかに届けられるんでしょうね。タイトルはもう少し考え てもよかったかなぁ。

 

吉岡さんの吉は本来、土+口ですが、環境依存文字のため正しく表示されないことがあります。そのため吉とさせて頂きました。よろしくお願い致します。

(ニュース和歌山2015年1月3日号掲載)