深い山の中をひた走るとたどり着く、かつらぎ町梁瀬地区にその工房はありました。耳馴染みのない「メツゲライ」という言葉は「肉屋」を意味するドイツ語。扱うのは作物を荒らす害獣といわれる鹿や猪で、それらをおいしい食材に変える〝匠〟が、このジビエ専門食肉工房を営む阪本晃一さんです。
肉好きが高じて
──開業したいきさつは?
「もともと保育士として働いていた園がシュタイナー教育やモンテッソーリ教育を取り入れており、研修で海外へ。そこで豚や牛の解体から精肉、加工を学べるギルド制度を知り、そっちの道に進みたくなったのが発端です。若気の至りというのもありますが、肉が好きだったというのが大きいですね。そこで退職してドイツに渡り、修業をしながらドイツの国家資格を取得。帰国後に開業場所を探してたどり着いたのが、鹿と猪がバランスよく獲れ、水がきれいなかつらぎ町です。2017年に地域おこし協力隊として大阪から移住しました」
──なぜジビエなのですか?
「修業先では有機の餌と放牧で育てた特別な豚を扱っていたのですが、脂の質が野生の猪と似ていることに気づきました。運動量があって自然に乗っている脂がおいしい。日本で作るならジビエだなと。ジビエは性別や季節、環境で味が変わります。おもしろいのが、紀の川の平地と高野山の標高では出産や発情期がずれること。この時期の肉は癖が強くて嫌がられることもありますが、お酒と合わせると意外と相性が良かったりもします。奥が深くて飽きることがありません」
──肉はどうやって入手を?
「罠にかかった鹿や猪がいると情報が入るんです。エリアは伊都郡全域と紀の川市、紀美野町、有田川町。仕留めて血抜き、回収、解体まで全部やります。ポリシーは安全かつ無駄に怖がらせることなく穏やかに、素早く処理してあげること。基本的に鹿と猪が中心ですが、たまにアナグマやアライグマなども扱っています」
食べやすく加工
――こだわりは?
「いい状態の肉をいい状態で食べやすく。皆さんがジビエに抱く『食べにくい』というイメージを覆すような、ジビエだからこそのおいしいソーセージを作りたいと思っています。筋は取り除き、弾力があって濃厚なスネやネックは加工用に。使えない部位もペットフードなどに無駄なく活用しています」
──どこで買えますか?
「卸している飲食店以外では、かつらぎの道の駅『くしがきの里』や電話注文などで販売しています。肉以外にソーセージや焼きハムなどもあります」
──今後は?
「今は本業である捌きを中心に、営業も回収も全部自分一人でやっていますが、今後は人にも頼りながら活動の幅を広げていけたら。以前子どもたちと、ソーセージとアナグマ鍋を作って食べるというイベントをやったところ特別感があったらしく、とても盛り上がりました。大人向けもぜひやってみたいですね」
【お肉とソーセージつくる場所 METZGEREI SAKAMOTO】
伊都郡かつらぎ町花園梁瀬1543-8
◇電話 090-3974-9123 ※回収などで出られない場合あり
◇定休日 水曜、日曜
写真=鹿肉とチェダーチーズと豚脂をブレンドしたソーセージ鹿肉チェダー(1袋900円)。※肉は小売でイノシシ100g1,200円〜、シカ100g700円〜。
(ニュース和歌山/2025年11月8日更新)




























