10年ぶり漁協事務所戻る

 和歌浦湾を一望できる山際に、「ひるこさん」の名で親しまれる蛭子神社(和歌山市新和歌浦)がある。2018年夏の台風で、本殿を守る覆屋(おおいや)が被害を受け、今年2月まで修復工事が進められてきた。管理する和歌浦漁業協同組合の横田邦雄副組合長は「昔から神社に組合の事務所が置かれ、地元漁師の寄り所になってきた場所。撤去の話も出ていたが、修復されて新たな船出が迎えられ、感慨深い」と笑顔を見せる。

 江戸時代の地誌書『紀伊国名所図会』に描かれる同神社。記録は残っていないが、本殿は遅くとも江戸後期に建立されていた。漁業の神えびすが祭神で、地元漁師は漁の安全を祈願し、住民は初詣や十日戎に訪れるなど、古くから親しまれてきた。

 しかし、2年前の台風で、老朽化した覆屋の屋根や壁が壊れ、本殿がむき出しになった。組合が市に相談したところ、歴史的風致維持向上計画の対象となり、市と国から工事費の3分の2が支給され、修復に至った。

 現在の社殿が組合事務所と一体となったのは1949年ごろ。市文化振興課の冨永里菜学芸員は「神社を漁協が管理し、事務所としても機能しているのは全国的にも珍しい。これからも地域の中心として、受け継がれていってほしい」。老朽化のために、組合は10年前、漁港内のプレハブに移転していたが、今回の修復で社殿に戻った。

 毎年7月にある汐祭(しおまつり)では、約30隻が出航する船渡御と本殿での神事が行われ、1年の大漁と海上安全を祈願する。平日は自由に参拝でき、横田副組合長は「本殿は桧皮葺屋根で、訪れた人が驚くほど立派。歴史を感じさせる建物を和歌浦散策の際に見てほしい」と呼びかけている。

写真=本殿を右へ進むと、趣きのある桧皮葺屋根が姿を現す

(ニュース和歌山/2020年7月4日更新)