1年くらい前から80歳代の母親の物忘れが多くなってきたように思います。財布をどこに置いたか分からなくなったり、買い物をしながら何を買うのかを忘れたりするようです。認知症なのではと心配です。早めに病院に連れて行った方がよいでしょうか。


《回答者》
◆リハビリテーション科
今村病院
リハビリテーション部
作業療法士
後藤  叶多先生

 年齢を重ねると脳の機能が衰え、誰もが物忘れをするようになります。自分が物忘れをしたと気づいた時、「認知症かも」と心配する方もいれば、「歳のせいだから仕方ない」と気にしない方もいるでしょう。

誰にでも起きる老化の物忘れ

 認知症の物忘れと、老化による物忘れには違いがあります。

 まず、老化による物忘れは、加齢によって脳の機能が衰え、記憶力が低下することで起こります。記憶には、脳に情報を入力する〈記銘〉、その情報を保つ〈保持〉、その記憶を必要に応じて呼び出す〈想起〉という、3つの段階があります。老化による物忘れというのは、買い物で「何を買いに来たのか思い出せない」「財布を置いた場所を思い出せない」といった、必要に応じて記憶を呼び出す〈想起〉の低下で生じるものです。「何かを買いに来たこと」や「財布をどこかに置いたこと」は覚えており、ヒントがあれば思い出せます。また、物忘れに対する自覚もあります。日常生活に支障が出たり、他の症状が出ていない限り、誰にでも起きうるごく自然なものです。

記憶が障害される認知症の物忘れ

 一方、認知症による物忘れは、脳の記憶に関する機能が障害されることで起こります。例えば、「何かを買いに行く」や「財布をどこかに置いたこと」自体を記憶しておらず、物忘れに対する自覚もありません。老化による物忘れの場合は、ヒントがあれば思い出せますが、認知症の場合はそもそも記憶がないため、思い出すことができません。

 よく耳にする「アルツハイマー型認知症」は、直近の記憶を覚えていないため、同じことを何度も尋ねたり、食事をしたことを忘れて食べ物を催促したりします。本人にとっては記憶できていない出来事なので、繰り返している自覚がありません。また、直近の記憶がないだけで、過去の記憶は問題なく残っていますので、過去と現在の記憶が混同して、あたかもいま起きていることのように、昔のことを語ったりする人もいます。

 老化による物忘れと認知症の物忘れの違いは、▽忘れているものが体験の一部か、全体的なものか▽物忘れに対して自覚があるか、ないか▽直近の出来事を覚えているか、覚えていないか、等があります。

 認知症は、早期発見が大切な病気です。早めに治療を開始すれば進行を遅らせたり、日常生活の工夫で改善できることもあります。少しでも不安を感じたら、かかりつけ医師や医療機関を受診してください。

(ニュース和歌山/2023年3月26日更新)