もちもちつるんとした食感と上品な甘み、きな粉の風味が懐かしさを覚える「いなの」のわらび餅。二代目店主・稲野香さん(53)が守り続けるのは、父・勝三さん(84)が「自分好みのわらび餅を作りたい」という思いから始めた、こだわりの味です。香さんに、店の歴史や作り方を伺いました。

 

田辺で創業 和歌山へ

二代目店主の稲野香さん。近くの小学校の児童が、作業を見学に訪れることもあるそうで、店内に御礼の手紙が貼られています。

 わらび餅に目がなかった勝三さんが田辺市で「自分で理想のわらび餅を作ってみよう」と思い立ったのは、20年以上前のこと。父の行動力が「いなの」の歴史の始まりです。

  長年、田辺で愛されてきた実績をもとに、2009年、和歌山市和歌浦へ出店。同時に、香さんも店を手伝い始めました。その後、現店舗の同市島崎町に移転。この春、勝三さんが田辺店をたたんだことから、香さんが看板を受け継ぎ、二代目として店を切り盛りし始めました。

 

経験が生む理想の食感

店頭のほか、県内の産直市場「よってって」やスーパー「松源」、道の駅「四季の郷公園」でも販売しています

 同店のわらび餅の特徴は、絶妙な食感にあります。「もちっとした弾力があるけれども硬くなく、つるんとした喉ごしは『いなの』独特の食感にこだわって丁寧に仕上げています」

 勝三さんから受け継いだレシピと厳選素材で一から作るわらび餅。「作り方は受け継ぎましたが、『見て判断することが何よりも大切』と教わりました。そのため、細かな部分は、これまでの職人としての経験をもとに微調整し、出来具合を見極めながら作っています」。軽やかな見た目とは裏腹に、製造はとても重労働。材料を混ぜて火にかけ、数十分間焦げないよう絶えずかき混ぜます。「一度に大量に作ることができないので、繁忙期は何回も炊き上げます」 

 わらび餅には上品な甘みがついていて、そのまま食べてもやさしい風味を感じられます。「きな粉には甘味を加えず、大豆の香ばしさを生かしています。まずは、わらび餅そのものの味を楽しんでから、順番にきな粉や自家製黒蜜をかけて召し上がってみてください」。素材が重なり合う豊かなハーモニーを体験できます。

 

季節限定フレーバーも

涼やかな見た目が夏のおやつにぴったり

 国産の材料を厳選し、時期によって和歌山県産のきな粉をセレクトしています。フレーバーも、定番のプレーンや抹茶、あずきのほか、季節限定でチョコレート、かぼちゃ、コーヒーなど様々です。子どもから年配の方まで、多くの世代が店頭に足を運びます。遠方からクール便で注文するリピーターもいます。

  香さんの12歳になるお子さんは、お母さんが作るわらび餅が大好きだそう。父から受け継いだ「理想のわらび餅」は、確実に次の世代にも伝わっています。

 

わらび餅 いなの

和歌山市島崎町5丁目30
電話 073-498-8977
営業時間 9:30-17:30
㊡不定休

(ニュース和歌山PLUS124号/2025年7月25日発行)
※記事は2025年7月25日時点です。
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