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 江戸時代から現代に至る書物を扱う「古書肆(しょし)紀国堂」が5月1日、和歌山市築港にある喫茶店水茶都の2階に開店した。開いたのは絵ハガキ・古写真を収集する同市の溝端佳則さん(56)。郷土史はじめ歴史関連の古書が豊富で、約20年かけ集めた和歌山の絵ハガキなど約1万5000枚も見ることができる。「古書店の数は文化のバロメーター。和歌山にはほとんど無くなり、自分が引き継ぐべきと思った」と意気込んでいる。

 階段を上がると、所狭しと並ぶ棚に書物がぎっしり。全国チェーンの新古書店が扱う出版年数の浅い本より、昭和に出版された本が大半を占める。約4000冊に及び、紀州藩編さんの地誌『紀伊続風土記』の元版、『南龍公御事略』『岩瀬広隆翁略伝』といった紀州藩関連の古書、『内海町郷土誌』『牟婁風土記』などの地域史も数多い。また入手が困難な鷺の森別院の土地台帳、『新宮藩史』のほか、明治維新後の役所、和歌山藩を示す和歌山藩庁の高札など骨董・古物もある。

 溝端さんは高校時代に、江戸時代の庶民の暮らしを描いた『紀伊国名所図会』に出合った。「教科書にはない、和歌山の昔の姿がいきいき描かれている」と驚き、23歳で22冊に及ぶ同書を購入。その後、故郷のかつての姿を追ううち、明治から昭和の絵ハガキ・古写真の収集を始めた。

 集めるだけでなく、2008年には、県公館で溝端さんが集めた和歌浦の絵ハガキの展示会を開催。県立文書館の発行物に、夏目漱石が和歌山を訪れたころの和歌浦の姿を伝える写真を提供するなど、地域の歴史継承に一役買っている。

 そんな溝端さんにとって、古書店は郷土の歴史とふれる大切な場所。本に詳しい店主が切り盛りする店が減るのは耐えがたく、長年勤めた県庁を思い切って退職。「やむにやまれぬ思いで」古書店を立ち上げた。販売だけでなく、収集した絵ハガキ・古写真1万5000枚を保管しており、和歌山のかつての姿にふれることができる。

 溝端さんは「古い写真をもとに、いろいろと和歌山の話ができればうれしい。郷土の史料が地元に残る手伝いをしたい」と力が入る。

 午前10時〜午後7時。毎週月曜と第2・4日曜定休。同店(073・499・8039)。

写真=歴史のある古書にこだわる溝端さん

(ニュース和歌山2016年5月21日号掲載)