「絶景の宝庫」として文化庁の日本遺産に認定された和歌の浦。日本の魅力を語る文化財をつなぎ「ストーリー」として発信する日本遺産は、全国で54件、和歌山県内では太地町などの「鯨とともに生きる」、湯浅町の「最初の一滴 醤油醸造発祥の地」と並び、3件となった。古代から名を響かせた和歌の浦だが、豊かな文化資産に見合う来訪者を呼び込めないでいる。認定は起爆剤になるか。

観光地再興 高まる期待


 保存重視だった指定文化財制度と違い、日本遺産は点在する文化資源をつなぎ、地域ブランド力を高める。2020年の東京五輪開催での外国人観光客増をにらみ、同年までに約100件にし、地域活性化につなげる。

 和歌の浦の認定範囲は、干潟と神社仏閣を中心に、西は雑賀崎、水軒堤防、南は海南市の長保寺と広い。和歌山城や紀三井寺も対象で、明光通り、黒江の町並みも含む。

 玉津島神社権禰宜(ごんねぎ)の遠北(あちきた)喜美代さん(59)は「聖武天皇の詔(みことのり)により守られてきた風景が今、評価されうれしい。日本の心である和歌の聖地、心落ち着く場所と知ってほしい」。紀州東照宮権禰宜の西川秀周(ひでちか)さん(42)は「和歌祭は5年後に400周年。日本遺産として保存会の方と世界に発信したい」。和歌山市立博物館の額田雅裕館長は「江戸期に和歌の浦とされた範囲に近い。様々な風景の魅力を知ってもらえる」と語る。

 認定を受け、6月中に県や和歌山市、海南市などが協議会を立ち上げる。これが事業主体となって3年間は文化庁の補助をもとに推進事業に取り組む。この事業には案内板整備、日本遺産ガイド養成、発信ツール作成、旅行商品の企画、調査研究とアウトラインはあるが、「鯨とともに生きる」を担う熊野灘捕鯨文化継承協議会は、ガイドのメンバーからのモデルルート作成の案を受け、事業に反映させるなど民間の意見も生かしている。

 名勝和歌の浦玉津島保存会の渋谷高秀事務局長(64)は「これまで行政に和歌の浦を主体的に整備する部局がなかった。協議会ができ、〝絶景の宝庫〟と売り出し方もはっきりしたのはいい。ぜひ地元にある活動の蓄積を使ってほしい」と望む。

 月2回の清掃ボランティアを続ける名勝和歌の浦クリーンアップ隊隊長で和歌浦地区連合自治会会長の大道眸(ひとみ)さん(79)は「『橋の欄干にさびがある。日本遺産なのにこれでいいのか』との声が寄せられるようになった。地域の意識は高まりつつある」とし、「駐車場、土産品店がない。人を迎える案内所があれば、もっと来てもらえるのだが…」。

 7月の日本遺産の事業開始と併行し、和歌山市はもう一つ和歌の浦振興計画を練る。「歴史まちづくり法」にもとづく歴史的風致維持向上計画だ。国土交通省など3省庁の認定を得ると、歴史的建造物の保存、文化発信などに国からの支援が受けられる。今年度中に計画案を決め、来春認定を目指しており、駐車場やガイダンス施設設置、一部地域の電柱地中化なども案として検討され、一部住民は注目する。

 半世紀以上、和歌の浦を撮影する写真家の松原時夫さん(77)は「1300年の歴史をこれまで生かせなかったのは行政の怠慢」と言い切る。「反面、数多い地元の地域団体がまとまれないのも長年の課題。行政と民間の足並みがそろえば、動かなかったものが動くかもしれない」とみる。

 「そもそも和歌の浦は和歌山の観光ルートに入っていない」「まずは和歌山の人に来たいと思ってもらわねば」と現状を嘆く声は地元に根強い。訪れたチャンスの生かし方が問われている。

写真=朝焼けの名草山

(ニュース和歌山より。2017年6月3日更新)