和歌山市 附属施設 一部保存へ

 「アニメ映画『天空の城ラピュタ』を思わせる」と訪れる人が絶えない友ヶ島砲台跡。この砲台跡をはじめ、紀淡海峡に面する加太には明治政府が築いた由良要塞(ようさい)の砲台跡が残る。このうち和歌山市は加太砲台近くの砲台附属施設を来春までに保存修理する。また深山砲台跡の整備を国に求めており、友ヶ島人気を追い風に一帯の魅力アップを図りたい考えだ。

 友ヶ島はここ5年、若者を中心に観光客が急増。2012年度の2万1425人が昨年度は6万9477人と3倍を超えた。今年度も既に4万人に達し、市は認めていなかった火、水曜の入島を11月末まで認め、渡船も運行している。

 9月25日に兵庫から来た大学生(20)は「和歌山城と友ヶ島に来ました。砲台跡はネットで知り、見てみたかった」。しかし、加太沿岸部の砲台は「知りませんでした」と驚く。

 日清、日露戦争と戦艦による戦闘が主だった明治期は、東京湾要塞をはじめ、国内に14ヵ所の要塞が築かれた。淡路島に司令部を置いた由良要塞は紀淡海峡防備を目的に国内4番目に設けられ、18砲台と陣地にあたる7つの堡塁が築かれた。和歌山側は1889年に起工した友ヶ島第一砲台を皮切りに深山、男良谷、加太、田倉崎に砲台を配備。開発などでなくなった所はあるが、多くは今も現存し、建築史家の西山修司さんは「大規模な地下遺構があり、沿岸部を含め総合的に砲台跡が残る所は珍しい。残存状況が良く、深山などはトンネルのアーチやレンガ造りにモダンな美しさがあり、建造物として一級です」とみる。

 市が整備を計画するのは青少年交流施設(元加太少年自然の家)予定地前にある加太砲台の附属施設2棟。倉庫と作業場を兼ねた弾廠(だんしょう)庫と厠(かわや)だ。 弾廠庫は木造平屋の79平方㍍で、梁に独特の組み方を施し、作業の邪魔になる屋内の柱を減らす構造キングポストトラスが残る。厠(22平方㍍)は木とレンガ造りで、「砲台の附属施設が当時のまま残る例はあまり聞かない」と市文化振興課。来春までの整備を目指し、「パネルを設置し、加太砲台跡と合わせ歴史の学習に活用したい」と語る。

 加えて同市は深山砲台跡整備の構想を抱く。深山第一砲台跡は深山地区北東の山上にあり、レンガ造りの地下弾薬庫やトンネルは保存状況が良い。紀淡海峡を一望できる展望台があるが、案内板、ベンチやテーブルは老朽化。国の所有地ゆえ、市は今夏、環境省に美化や観光客受入体制整備などを求めた。市観光課は「友ヶ島へ来た人に回ってもらうだけでなく、天候不良で島に渡れなかった人の受け皿になる」と見越す。

 深山砲台跡を宿泊者向けの散策に生かす休暇村紀州加太の大野順一副支配人は「深山砲台跡は冬は水仙、秋口には時に明石海峡大橋が望め、穴場的な良さがあります。安全対策は国に求めていますが、深山砲台跡はパンフレットにもなく、もう少し行政がPRしてくれたらいいですね」。

 加太活性化協議会の尾家賢司会長は「協議会の青年部が頑張り、語り部班が砲台跡を含めて加太の魅力を紹介しています。若い人が来るようになり、さらに整備が進めばうれしい。ただ交通手段の問題をもっと考える必要が出てくる」と話す。

 市文化振興課は「各砲台跡を通してみると、レンガ中心からコンクリートが用いられるようになる変遷がうかがえます。近代化に向け努力した人の姿を感じられる場になれば」と望んでいる。 

写真上=手前が現存する厠、奥が弾廠庫 同下=深山第一砲台跡のトンネル

(ニュース和歌山/2017年10月7日更新)