まるで水彩画のように繊細で淡い色が広がる風景。これを多色木版で表現したのが、昨年3月に69歳で他界した海南市の元中学校美術教師、木下護さん(写真上)だ。遺作を集めた回顧展が3月26日㊍〜30日㊊、和歌山市湊通丁北のアバローム2階と同市湊通丁南のギャラリー白石で開かれる。大学時代から木下さんを知る枡本敏さんは「木下さんがこだわった多版多色木版は本人も把握できないほど何百回と版を重ねる独自の技法。未だかつてだれも見たことがない絵、その驚きを感じてほしい」と願う。

 海南市を中心に25年間、中学校美術教師として教壇に立った木下さん。50代半ばで退職してから、油絵を中心に描いていたが、最後の8年間は木版の奥深さに魅了され、時間を費やした。山歩きや、妻の久子さんとのスケッチ旅行など充実した日を送っていた最中、2019年1月に末期の肺がんと宣告され、その2ヵ月後に帰らぬ人となった。

 今回展示するのは、「礼文灯台のある風景」(写真下)、「骨貝とビー玉のある風景」など多版多色木版約30点。一見、筆で塗ったような細かさと風合いだが、全て、版木を彫り残した部分に色を乗せ、刷り上げた木版作品だ。一般的な木版画は1枚の版木にそれぞれの色を塗り、刷るが、木下さんはモチーフや色別で何枚もの版木を作り、スタンプのように刷った。

 この技法に行きついたのは、木下さん自身が筆跡や色むらなど、手作業の痕跡を嫌がり、理想とする色を確実に出すためだった。枡本さんは「周りから見れば途方もない細かな作業と精密さが求められる。木下さんにしかできない技法です」と太鼓判を押す。

 久子さんは「自分なりの表現技法が見えてきた矢先に病気になり、あっという間に逝ってしまった。絶筆になった未完の『落石岬の風景』は最後まで命をかけた作品です」と話している。

 また、初期に描いた油絵やデッサン画30点も展示。午前10時~午後5時(最終日4時)。木下さん(073・483・5703)。 

(ニュース和歌山/2020年3月21日更新)