紀の川市社会福祉協議会が75歳以上の希望者を対象に月2回、配達している弁当。同市の園児や小中学生が描いた絵で包まれたこの弁当は、お年寄りのおなかと心を満たしている。この包み紙用にと約15年前から直筆の絵を贈り続けているのが同市桃山町の町田勇輔さん(81)。最近は手作りの塗り絵を近所のお年寄りと仕上げて提供。包み紙を介した輪が広がっている。

紀の川市 町田勇輔さん 社協へ絵贈り15年〜仲良し3人との塗り絵も提供

 「こんにちは。お弁当です。体の調子はいかがですか」。紀の川市社協がお年寄りの健康状態の確認や、孤独感の解消にと実施する食事サービス事業。弁当の包み紙用に毎月10枚ほどの絵を届ける町田さんは、山口県周防大島町出身で、22歳の時、就職で和歌山市へ来た。定年後まもなく桃山町へ。そのころ始めたのが、元々は苦手な絵だった。

 題材にするのは、宿泊施設のパンフレットに載っている友ヶ島、喫茶店でもらったコーヒーの袋に描かれていた景色など、身の回りにあるもの。17年前、周防大島町で高齢者向け弁当用包み紙に使う絵を募集しているのを知り、絵を提供し始め、その後、紀の川市にも申し出た。絵だけでなく自作の詩や童謡の歌詞を添えたり、鳥やチョウ、花がプリントされた切手を森の絵にちりばめたりと、見た人が楽しめる工夫を凝らしている。

 今年2月には、近所に住む栂野昭さん(94)、前阪弘子さん(88)、田邑ヒサエさん(89)と一緒に塗り絵を楽しんだ。「4人のうち、私を含めて3人が2月生まれ。誕生祝いにと思いまして」と町田さん。理髪店をしているカニ、桃の花で作った額、授業中にパラパラ漫画を描いている男の子…。かわいらしい塗り絵の台紙は町田さんの手作りだ。

 前阪さんは「カニの赤は濃い部分、薄い部分をつくるよう工夫しました」とにっこり。田邑さんは「塗り絵もそうですが、絵を描くこと自体、何十年ぶり。町田さんが考えてくれたものは細かすぎず、塗りやすくしてくれていました」。

 4人で和気あいあいと塗った絵も、包み紙用に提供した。紀の川市社協によると、毎月の包み紙を大事に保管しているお年寄りもいるそう。栂野さんは「どなたに配られたのかは分かりませんが、自分の塗った絵を見てもらえるのはうれしいことですね」。町田さんは「私たち4人で352歳。絵を見た高齢者の励みになればありがたい。私自身は今後も絵の提供を続けるつもりです」。

 弁当の包み紙を介した笑顔の輪は今後も大きくなりそうだ。

写真=左から2人目が町田さん。手作りで用意し、仲良し3人と楽しんだ塗り絵も包み紙に

(ニュース和歌山/2020年6月13日更新)