東京医療保健大学和歌山看護学部の入駒一美教授と関西大学非常勤講師を務める東尾真紀子さんが10月、「和歌山養護教諭ワークショップ」を始めた。〝保健室の先生〟がスキルアップを図る機会づくりが目的で、普段の思いを語り合い、健康問題や不登校など子どもたちを取り巻く課題へのアプローチを探る。とりわけ岩手県出身の入駒教授は、和歌山出身者が岩手の養護教諭養成の礎を築いたのを踏まえ、「和歌山へ恩返ししたい」と力を込める。

養護教諭に学びあいの場〜〝岩手から恩返し〟も

 入駒教授は岩手県の高校で長年養護教諭を務め、その後、同県教委で勤務。保健室の機能と養護教育を研究し、昨年、東京医療保健大学和歌山看護学部へ赴任した。東尾さんは小学校から高校までの養護教諭を経て桐蔭中へ勤務。2012年度に同中を日本学校保健会健康教育推進学校最優秀校へ導き、養護教諭として県内初の文部科学大臣表彰を受賞した。

 東尾さんの保健室経営計画に関する論考を介し知り会った2人。近づけたのは和歌山の養護教諭が置かれる現状への認識だ。養護教諭は学校に一人のため、指導を受けることや、情報交換が難しく、職員室との連携も手探りだ。

 特に和歌山は、より専門性の高い養護教諭一種の育成機関が東京医療保健大学開校までなく、研修も1年目、10年目と他府県に比べ少ない。研さんは本人に委ねられる。今年は新型コロナウイルスへの対応の提案が求められ、現場からは「登校時の対応から学校内の情報共有まで国のマニュアルが更新される中、一人で立案するのは不安があった」との声も聞こえる。

 ワークショップはこのような現状を踏まえ、現場の「つぶやき」を拾い、スキルアップを図る。

 東尾さんは養護教諭時代、管理職や担任と協力して不登校の生徒を保健室登校を経て復帰させた経験が何度かある。「和歌山は不登校率が高いが、養護教諭が組織の中で活躍できたら減らせる。強い志を持ち、専門性を発揮できる場があれば、学校はよりよくなります」と語る。

 一方の入駒教授には特別な思いがある。岩手県では戦後、全国で初めて4年制の県立養護教諭養成所が設立された。貢献した教育長、山中吾郎氏と盛岡赤十字病院院長の南出英憲氏は和歌山出身。懇意だったため協議が進み、「岩手の養護教諭育成の礎で、全国モデルになりました」。山中氏はのち衆議院議員に、南出氏はへき地医療で実績を重ね、岩手に根ざし続けた。入駒教授は「和歌山で養護教諭養成に携わったのも縁。恩返ししたい気持ちです」と話す。

 11月29日の第2回ワークショップには5人が参加。保健室経営計画や歯科保健教育の方法を学びあった。参加した養護教諭は「小さい相談ができず困ることが多い。ワークショップは一方的に聞くのでなく、思っていることを質問できるのがいい」。別の養護教諭は「市町村や学校によって同じことでも取り組みが違う。他校のことを知ると、ヒントになります」。

 今後も月1回開く計画で、入駒教授は「山中氏、南出氏の業績を踏まえた『岩手の養護教諭』にならい、『和歌山の養護教諭』を出版するのが夢。ネットワークもつくれれば」。東尾さんは「今年はコロナが大変だが、子どもの健康に最前線でかかわるのが養護教諭。〝チーム学校〟として子どもの心身を支える形をめざしたい」と望んでいる。

 詳細は東尾さん(sakura4haru2010-akiaki@yahoo.co.jp)。

写真=現役の養護教諭と語る東尾さん(左)と入駒教授

(ニュース和歌山/2020年12月12日更新)