地域経済の今後を占う年になりそうな2015年。まちなかは? 中小企業は? 老舗は? それぞれと向き合ってきた3人の専門家に課題と展望を語ってもらった。

中心市街地活性化に再びチャンス

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和歌山社会経済研究所
常務理事 木下雅夫

 和歌山市の市街地は近年、非常に厳しい状況に立たされている。市が中心となって、2007年8月から12年3月まで力を込めて取り組んだ「中心市街地活性化基本計画」は、ハードの整備、ソフトの実施など計64事業に及んだ。市は一定の成果があったとして評価しているが、国の最終的な総合評価は残念ながら芳しいものではなかった。

 私は地域活性化の研究に携わる者として、総合的な見地から成功しなかった大きな要因を一つ挙げるとすれば、「和歌山大学観光学部学舎整備事業」の未達成だと考えている。周知のように同学部学舎は結局、同市栄谷の和大内に建設された。もし、計画通りのぶらくり丁や中心市街内に設置されていれば、500人ほどの学生や教員、関係者が毎日中心地を往来していたはずだ。若い学生が日々、そのエリアで活動すると、すごいパワーになっていただろう。想像するだけでも現状とのギャップが残念でならないし、このような思いをするのは私だけではないだろう。

 しかし、再度チャレンジする機会が訪れるかもしれない状況が出てきた。昨年8月に尾花正啓氏が和歌山市長に選ばれ、11月には仁坂吉伸知事が3選を果たした結果、今まであまり記憶にない、県と市の政策連携がスタートしたのだ。取り組む課題は数多くあるものの、その目玉政策としてまちなか再生があり、中でも、高等教育機関の市街地への誘致が挙げられている。すでに、知事が表明している県立医大薬学部の新設構想がそれで、市街地活性化の最大の起爆剤ではないだろうか。先の轍を踏まない事業化推進と、その成功を切に願っている。

創業活発な故郷の実現へ

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岡会計センター代表取締役
中小企業診断士 岡京子

 和歌山はまさに小規模企業〝王国〟。総務省によると、人口100人当たりの自営業者数は6・99人で全国1位、中小企業の割合も99・9%で全国1位、小規模企業の常用雇用者・従業者数も38・1%で全国1位となっている。

 このように、和歌山では地域経済や雇用の創出、つまり、地域社会の活性化の大きな鍵を握るのは小規模企業である。その発展・成長を地域社会ぐるみで支えていくことが、地域の元気な未来につながるという考えのもと、2013年に県中小企業振興条例が公布された。昨年は、国が小規模企業振興基本法を成立させ、和歌山市でも産業振興条例の制定が進められるなど、中小企業の持続的発展への支援が加速している。

 それに合わせ、弊社は中小企業庁の指定を受け、昨秋から「夢を叶える☆わかやま創業スクール」を開催。アベノミクスの第三の矢の柱の一つ「産業の新陳代謝と新規起業の加速」を、和歌山で実施しようという事業で、創業支援は時流にあった方向性といえる。しかし、それ以上に、創業者のみなさんから、純粋に元気や勇気をいただいている。前向きな「エネルギーの塊」のようで、地域を活性化していくことができるのは、まさにこのエネルギーだろうということが実感できている。

 和歌山の自然と農林水産資源、歴史・文化などを活用し、創業者の持つパワーを重ね合わせることで、消費税率引き上げによる消費の低迷、高騰する原材料費や光熱費を価格転嫁し辛い問題や人材不足など、小規模企業にとっては大変厳しい昨今の経営環境を跳ね飛ばすことができる、そんな故郷の将来を描く元旦である。

老舗退場 問われる街の品格

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和歌山大学客員教授
鈴木裕範

 創業550年と伝わる和菓子の総本家駿河屋が2014年5月に破産した。老舗の退場である。南海和歌山市駅前では、文化七年(1810年)以来のれんを守り続けてきた小鯛雀寿司の老舗「角清」が当主の死去で店を閉じ、3月には近隣の喫茶店ヱモンが58年の歴史に幕を閉じた。そして、8月には大手百貨店髙島屋和歌山店の撤退である。今また、これも長い歴史をもつ和歌山市内の家具店が店じまいするという。老舗の相次ぐ退場はそれぞれ事情があるが、背景には小売・流通業界の変化、消費者ニーズの多様化などがある。

 老舗は、何世代にもわたり時代を超えて伝統的に事業を行っている小売店や企業である。職人の感性とすぐれた技、質実で浮利を得ない経営哲学が信頼を得、地域や人びとの暮らしに貢献してきた。酒造り、和菓子、料理、呉服、暮らしの道具など、老舗は伝統産業に多い。それらが現在に伝えるのは、地域の歴史や文化、暮らしであり、日本の文化である。老舗が存在する大きな理由が、ここにある。日本でいま、100年以上続く企業は10万を超える。

 地域経済が活発で、若者があふれる街はいい。街には躍動感が必要である。が、魅力をつくるのは、街の文化の質にある。歴史を語る街並み、街を流れるきれいな川、そして茶道や華道、能、工芸など、伝統文化が多彩に花開いている街には豊かさがある。そこには、決まって老舗と呼ばれる和菓子屋があり、造り酒屋などがある。それらを地元の誇りとして支える人たちがいる。

 老舗の営みは、地域の文化そのものである。老舗に求められるのは、みずからのブランドがもつ信用性への矜持(きょうじ)と地域における役割の自覚である。一方、市民に求められるのは何か。モノづくりへの尊敬と地元を愛する心だ。それが老舗を育て、街の品格をつくる。老舗問題が突き付けているのは、私たちはどういう街に住みたいのかということである。

(ニュース和歌山2015年1月1日号掲載)