最近耳にする機会が多い「リノベーション」。既存の建物を改修し、用途ごと変更することを意味します。空き物件が多い和歌山でも注目される手法ですが、今回は空間デザイナーやウェブ制作会社などアイデア豊富なクリエイターたちが、自らの手でリノベーションしたスペースをご紹介。デザインオフィスを兼ねたコーヒー焙煎(ばいせん)所、自家製ハーブを使ったカフェ、連日多彩なイベントを発信するシェアキッチンの3ヵ所を訪ね、場所に込めた思いを聞きました。

地元に愛着持てる場を THE ROASTERS ザ・ロースターズ

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 みかん畑と民家をぬうように路地が入り組む和歌山市大河内地区に昨年9月、みかん貯蔵用の倉庫を改装し、コーヒー豆直売所「ザ・ロースターズ」が開店した。扉を開けると焙煎機でローストした豆の香りがふんわり立ち上る。

 同地区で生まれ育ち、東京と福島の家具・店舗デザイン事務所でデザイナーを務めてきた神谷健さん(32)が友人のイギリス人大工と造り上げた。「自分が大学進学を機に和歌山を離れるまでは、商店街に百貨店と、たくさんあった遊び場が今はなくなっている。中高生が大人になったとき、地元に愛着を持つひとつになれれば」と力を込める。

 店舗デザインや家具の設計に携わってきた神谷さんは、東日本大震災後の原発事故をきっかけに福島県郡山市から家族でUターンした。焙煎士の妻、仁子(じんこ)さん(33)とともに、焙煎所とデザインオフィスを兼ねた「ザ・ロースターズ」と、紀美野町西野に週末限定でコーヒーを提供する「ザ・スタンド」を立ち上げた。 

 ロースターズは扉や窓枠に木を使い、温かみのある雰囲気。通りに面した窓を大きくとり、明るく開放的な空間に、北欧製のデザイナーズチェアや海外の写真集、植物などがさり気なく並ぶ。

 焙煎した豆は飲食店や個人へ販売するほか、店内でいれたてのコーヒーをゆっくり味わえる。神谷さんが設計し、海南市の鍛冶工房で脚を製作したオリジナルのスツールが並ぶ長さ6・5㍍の対面式カウンターは、「自宅でもおいしく飲んでもらえるよう、お客さんとふれあえる場を」との思いを込めたもの。「お客さんから『どれ位の温度でいれたらいい?』と聞かれたり、湯を注ぐ手元を見てくれる方もいます」と仁子さん。

 開店から3ヵ月、豆を買い求めに来たご近所さん、情報誌を片手に遠方から訪れる若者、マフィンを食べる小学生と、様々な客が入り交じる。神谷さんは「大河内で店をやるとは考えていなかったが、田舎の町でもできると思って挑戦する人が増えていけば、和歌山はもっと面白くなると思う」。ふるさとに向けるまなざしは温かい。

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 和歌山市大河内547-6。午前10時半〜午後5時。土日水休み。電話073・463・4841。駐車スペースあり。

アイデア次第で無限に  Herb+Cafe ハーブプラスカフェ

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 大阪から有田川町にUターンし、実家の工務店跡をリノベーションしたカフェを昨年10月に開いたのは、空間デザイナーの河野芳寛さん(40)。メーンは、近隣の畑で無農薬栽培したハーブを使ったメニューだ。オープンから2ヵ月ほどで600人以上が足を運び、珍しさとスタイリッシュな空間が話題を集めている。

 河野さんはオーストラリアでショーウインドーのディスプレーデザインの経験を積み、大阪の装飾会社を経て2000年に独立。大手電気メーカーや化粧品などの展示場ブース、展覧会の構成などを手がけている。

 10年に拠点を大阪から有田川町に移し、デザイン業のかたわら「和歌山でも自分を表現できるものを」と探し求め、出合ったのがハーブだった。「アイデア次第で無限の組み合わせがあり、可能性が広がるのはデザインと同じに思いました」とにっこり。

 農業は未経験だったが、独学で栽培を始め、ハーブコーディネーターの資格を取得。ハーブティーの商品化からスタートし、もっと親しんでもらえる場をとカフェをオープンした。

 2年かけて改装した店内は、「元の名残りと今の自分を合わせる」という空間づくりへのこだわりが細部に光る。壁やカウンターには、倉庫に残っていた大きさが異なる木板を張り巡らせ、色を塗らず印字もそのままにし、木材の風合いを生かした。カウンターにはレモングラスやローズヒップがつり下げられ、ハーブと木材の色合いが調和する。テーブルやイスも自作で、夕刻にはやわらかな明かりが灯る。

 ミントやハイビスカスを使ったケーキや、数種類のハーブをブレンドしたポットティーなど多彩なメニュー開発もすべて河野さんが手がけた。初夏にはハーブ畑で、自然にふれながら楽しんでもらう仕組みも計画中だ。

 毎回違うメニューを楽しむリピーターもできた。「ここは住宅地でロケーションはよくないが、逆に店内とのギャップが出せた。アイデアが良ければ面白い場所はできる。経験がないからとあきらめるのではなく身体で覚え、自由な感覚でやっていきたい」

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 有田川町徳田223-1。午前10時〜午後5時。営業日は月替わりで、1月は3日と木金休み。電話0737・23・7551。駐車スペースあり。

人と人つなぎ好奇心刺激 PLUG プラグ

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 昨年9月、ぶらくり丁近くのビル1階にオープンしたプラグは会員制の共同キッチン兼カフェ。食材を持ち込み自由に調理してもらうほか、食をキーワードに、ユニークなイベントを次々打ち出している。ウェブデザイン会社のBEE(ビー)と、同ビル2階で異業種が交流できるオフィス「コワーキングスペースコンセント」を手がけるルーカルが共同で運営する。

 連日開かれるイベントはロースターズの神谷夫妻によるコーヒーのいれ方教室、インターネット関係の仕事に携わる人を集めた和歌山IT飲み会、他府県出身者が郷土料理をふるまう会、数種類のカレーを食べ比べるパーティーと多彩。「こんな内容をやりたい」と持ち込み企画を共同で開くケースも多く、参加者同士の交流や仲間づくりに一役買っている。

 BEE代表でウェブディレクターの久保田善文さん(36)は滋賀県出身で、2002年に和歌山大学経済学部を卒業後、04年にBEEを起業した。「ITの仕事はどこででもできるが、地域の人ともっとかかわる場所にし、ここを起点に、界隈(かいわい)を盛り上げたい。ゆくゆくはウェブの仕事とミックスしていける場になれば」と期待する。

 昨年3月まで別のカフェだった場を改装して生まれ変わらせた。店を作っていく体験から共有し、愛着を持ってもらおうと、解体やペンキ塗りなどの作業をワークショップ形式で進め、会社員や若手建築家、大学生ら有志約40人が参加した。

 完成した店内には調理道具や食器を備えたキッチンはじめ、テーブルセットや109インチのスクリーンを用意。シンクの周りに人が集まれるようカウンターを設け、人がキッチン内で行き交うことを想定し通路を広めにとり、ビールサーバーを置くなど工夫を盛り込む。

 切り盛りする小泉博史さん(33)は「好奇心を刺激するイベントと出合える場にしたい。人と人がつながれるスペースに少しずつなっているように思う」と自信をのぞかせる。時には参加する側に、時には企画する側に。シェアキッチンを舞台に、食事を共にしながら輪は広がっていく。

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 和歌山市万町4、ニューリチャードビル1階。営業予定はプラグのフェイスブックページで確認。メール(plug@bee-design.co.jp)。

(ニュース和歌山2015年1月3日号掲載)