「野生復帰見守ろう」呼びかけ 和歌山、紀の川市へ昨年4羽

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 国の特別天然記念物、コウノトリ()の確認が紀の川筋など県北部で増えている。2012年に和歌山市内に飛来し、定住している通称、和歌山コウちゃん(個体番号J0057、オス)はじめ、昨秋までに海南、紀の川市で別の3羽のコウノトリの姿が目撃され、一昨年8月には和歌山市内の水田に一度に6羽の飛来があった。国内に80羽とも言われる中、和歌山で野生の繁殖が実現する可能性もあり、見守る住民は「数が増え、行動範囲が広くなり、動きが把握しにくくなった。多くの人に見守ってほしい」と呼びかけている。

 明け方や日暮れ時、和歌山市船所周辺の用水路。体長約1・1㍍のコウノトリ、J0057がエサを探し水辺を移動する。紀の川上空を旋回し、時には住宅地や道路など人の多い所へ降り立ち、見る人を驚かせる。

 J0057が一帯に姿を現したのが2012年9月17日。豊岡市で人工繁殖され、放たれた親鳥が京丹後市で生んだ個体で、一度は姿を消したが、13年6月に再び和歌山市へ戻った。以来、紀の川を中心に支流の河川、用水路などでエサを捕獲し生息している。

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 「まず見てください。大きさに驚くだけでなく、美しさに感動します」と同市船所で喫茶店バーフォードを経営する土橋進さん。その存在感に魅せられ、土橋さんは毎日、朝と夕方に姿を確認し、様子を毎日、ブログ「樹々のひかりⅡ」に記している。「これまで撮影した写真は7万枚以上。見守るのは生活の一部です。道路を平然と歩くこともあり、気になるんですよ」。同じく近くに住む福田直彦さんは「熱心に見守る人の顔は覚えているのか逃げないので、人なつこく感じます。暇な時、自転車で姿を探し、今日はエサ食べられたかなとか、余計な心配ばかりしています」と笑う。

 注目されるのは、定住しているJ0057以外の飛来が目立ってきていることだ。13年にJ0050(メス)が同市に4回現れ、J0057のもとへもやって来た。また昨年、海南市にもJ0481(オス)が姿を現した。昨年11月には、大陸から渡ってきたとみられる、足環のない個体(性別不明)が紀の川市内のため池で何度も確認されている。

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 全国のコウノトリ情報を集めているコウノトリ湿地ネット理事の宮村良雄さんは「大半は山間部や農村といった人のいない所に住むが、J0057のように市街地近く、まして住宅地に生息する例は極めて珍しい。道路を歩く姿などには本当に驚きました」と語る。紀の川市に足環のない個体が飛来し、J0057が気にしていることについて「紀の川市の個体は幼鳥で性別が分かりません。しかし、もしメスでこの先、J0057とペアになり繁殖するようなことになれば、最先端の事例になる。豊岡市とその近辺以外でペアが生まれ、野生で繁殖した例はないんです」と期待は大きい。

 飛来するコウノトリが増えるにつれ、行動範囲は広くなり、確認情報の収集が難しくなりつつある。土橋さんは「コウノトリが現れるのは環境が良い証拠です。私自身も他の鳥、草や木など自然をより身近に感じるようになった。多くの人が見守ることで、和歌山の豊かな自然を見直すことにつながれば。ぜひ情報をよせてほしい」と話している。情報はバーフォード(073・453・1293)。

コウノトリ…かつて日本各地に生息していたが、戦中から戦後にかけ激減。1971年に兵庫県豊岡市を最後に国内で野生のコウノトリは絶滅した。兵庫県は65年から豊岡市で人工飼育を始め、89年、初めてヒナが誕生。2005年に野生復帰のため放鳥が始まり、07年には初めて野外でヒナが生まれた。放鳥した個体、野外で巣立った個体は同県が足環を付け、生息を確認している。

写真上=和歌山コウちゃんの姿/=一昨年には6羽が一度に飛来した/=市街地近くでの生息は珍しい

(ニュース和歌山2015年1月10日号掲載)