マーケティングを軸に観光を〝稼げる〟体質に変え、地域に活力を呼ぶ組織「日本版DMO」の立ち上げが進む。政府が「まち・ひと・しごと創生基本方針」で後押しし、和歌山県内では和歌山市、橋本市、白浜町が設立を図り、戦略的な観光地経営を目指す。県観光交流課は「時代の要請。観光資源をお金に換え、地域活性化、雇用創出につなげる仕組みが求められている」と話している。

 DMOは、観光先進国で効果をあげ、国内では昨年、観光庁が日本版DMOの候補団体登録を始めた。地方公共団体と連携し観光地づくりを行う社団法人、財団法人、株式会社などが申請し、登録されると、支援対象になる。複数県にまたがる「広域連携DMO」、複数市町村の「地域連携DMO」、単独市町村の「地域DMO」があり、現在、登録は88団体に及ぶ。

 データの分析やマーケティングをふまえた観光地経営で利益を上げ、地域経済を浮上させることが期待される。和歌山では2006年に「田辺市熊野ツーリズムビューロー」が設立され、熊野古道への外国人観光客の誘客を図り、旅行業を展開。多言語対応のネット予約システムを確立し、昨年度は過去最高の売り上げを更新し、先進例として高い評価を受ける。「団体旅行中心の時代から、地域で旅をオーダーメードする着地型観光が増え多様化している。従来の形では対応が難しくなっている」と県観光交流課。

 県内では、橋本市が、奈良、大阪、和歌山9市町をエリアにした「高野吉野路ツーリズムビューロー」(仮称)を来春までに設立。白浜町は5月に「DMO白浜」設立準備協議会を発足し、商工会、観光協会、旅館組合、町が連携し、3年後の立ち上げを目標にする。

 今秋、法人格を持たない任意団体から社団法人へ移行し、和歌山市版DMOを目指すのが和歌山市観光協会だ。現在、同市観光課が定款や運営方針を策定中で、10月の総会で承認を求める。同課は「協会は情報発信、旅行商品の企画。市は観光計画の策定、管理業務、イベントと役割を明確にする。協会は自ら稼ぎ、持続可能な団体にならねばならない」と話す。

 市の場合、観光スポットの豊かさがPR面2016090301_kankouで逆に課題となってきた。設立時社員となる同協会副会長で紀三井寺はやしの林泰行社長は「全部をアピールすると薄くなる。ポイントを決め、協会員が納得できる新素材をつくる必要がある」。40代の協会員は「会員には自分たちで利益を生もうという人もいれば、そうでもない人もいる。意識統一するきっかけになれば。役所はすぐ担当が変わるので、観光専門の職員が育ってほしい」と望む。民間企業経験者を登用したい意向で、同課は「民間の経営感覚は欠かせない。市を観光の通過点にさせず、地域間競争に勝たねば」と力が入る。

 高野吉野路ツーリズムビューロー立ち上げを進める和歌山社会経済研究所の堀切久壽副理事長は「経済効果ではなく、観光地への訪問者数を数えるような行政の観光施策は限界に来ている。DMOは地域の何にテーマを置くかが鍵で、一方で住民の郷土愛、おもてなし精神があってこそ。収益をあげるのは容易ではないが、人口減少がとまらない地域社会の今後がかかる」とみている。

写真=夏の名物ぶんだら節。和歌山市の観光は変わるか

(ニュース和歌山2016年9月3日号掲載)