和歌浦の歩みを地域の人に伝える「和歌浦壁新聞」が10月から明光商店街近辺の和歌浦地区ではり出されている。和歌山大学の天野雅郎教授(61)ら地元民4人による手作り新聞。地域の歴史、暮らす人の横顔をつづる。「和歌浦で活動する市民グループは多いが、活動しない一般の人がつながれる場をつくりたい」と地域の壁から、新たなふれあいを生み出す考えだ。

住民が創刊 歴史とどめ人の横顔つづる

 明光商店街、とある店舗横の掲示板。はり紙をのぞくと、妖怪ぬりかべを模した絵入りの「わかうらかべしんぶん」のロゴが。A3の紙2枚に記事がずらりと並ぶ。地元の住民が和歌浦の変わりようを語るインタビューが目に入る。

 同紙を編集するのはいずれも和歌浦に暮らす4人。約10年前に移り住んできた天野教授は、地域の人とふれあう中、その人の歩みから豊かな歴史をかいま見る瞬間があった。「ある場所の記憶、思い出を伝え、残す新聞を出せば、面白いかかわりができる」と思い立ち、知人に声をかけた。

2016111901_kabe 発行は月1回。紙面は現在、松木書店など明光商店街数店と掲示板計7ヵ所にはり出す。また、月1回、和歌の浦アートキューブで開く百人一首を読む会でも配っているが、〝壁〟にこだわる。「インターネットなど人をつなぐ仕組みは増えているが、そこからもれる人たちにこそ語りたいことがあり、共有できるものがあるのでは」と天野教授。「子どものころにしていた素朴でシンプルなものを大人が楽しむ面白みもある」と語る。

 創刊号では、天野教授が「壁談議」と題してコラムを執筆。芝﨑修平さん(29)が明光商店街で店を長年構えてきた鳥居信次さん(82)にインタビューした。芦辺卓啓さん(48)は1971年にライオンのような得体の知れない動物が和歌浦に現れた「しんわかライオン騒動」を改めて追跡した。

 芝﨑さんは「史料に残っていない情景の変化を語ってくれるのが新鮮。住民だからこそ知るものを引き出したい」。芦辺さんは「ネタには苦労していますが、私は笑える記事を書きたいです。2号では奥和歌ヘルスセンター、今は和歌浦にあった映画館を取材中。ノスタルジーを感じるものを発掘します」と笑う。

 現在は第2号をはり出しており、反響は上々。喜びの声や新たな情報提供、時に間違いの指摘も。第1号で取材を受けた鳥居さんは「和歌浦は子どもが減り、過疎の傾向があり、昔の地域の姿を伝える機会が減っている。懐かしむだけでなく、若い人に向けてほしい」。壁新聞を掲示するたけや洋品店の宮本和歌さん(48)は「なじみのある方ばかり登場し、心に響きます。20年前にお嫁に来て知らないことも多いですが、昔のことを教えてくれ、さらに和歌浦に親しみがわきます」と喜ぶ。

 編集協力するNPO銀聲舎の松尾寛さん(42)は「ゆるやかに続けたい。20号、30号と積み重なるのが楽しみ。私たちの頭の中にある和歌浦とは別の姿がみえてくるかも」と期待。天野教授は「原稿はたまっています。書きたいと思う人が出てきてもいい。壁新聞を通じ、地域と子どものつながりもつくりたいですね」と構想を膨らませる。

写真=新聞を創刊した(左から)天野教授、芝﨑さん、芦辺さん

(ニュース和歌山2016年11月19日号掲載)