和歌山市大谷の住宅地を抜けた山あいにたたずむ金比羅神社。地域の人が大切に守るこの神社の春の例祭で昨年、獅子舞が復活した。同じ楠見地区にある別の神社で披露されていたが、40年前に担い手不足で中断。再開に向け地元住民が調査する中、江戸時代までは金比羅神社で奉納されていたことが分かった。今年は4月9日(日)午後1時からで、保存会の谷口敏裕会長は「地域の誇りである芸能を後世に伝えていきたい」と気合いを入れる。

 
 『楠見郷土誌』によると、同神社の獅子舞は大谷地区の五穀豊穣を願う神楽舞が起源。大谷の奥山に大蛇が出て女性や子どもがよく襲われ、いさめる方法として若者たちが山伏から獅子舞を教わったとの伝承が残る。明治時代からは別の神社で盆踊りの後に行われ、青年団が芸を担ってきた。戦中に披露する機会が減って以降、必要な16人が集まらず、1970年代後半に途絶えた。

 復活のきっかけは2008年から秋に開かれている楠見地区文化のまつり。当時、楠見公民館館長をしていた宗眞紀子さんが「地域の伝統文化を子どもたちに伝えたい」と断絶していた獅子舞に注目した。舞手集めのため地域へ呼びかけ、古老の記憶や郷土誌をもとに舞を復元し、翌09年に復活させた。「楠見の人々が一丸となって動いてくれました」と宗さん。文化のまつりで今も続く一方、元々行われていた金比羅神社でも昨年から春に奉納されている。

 復活以降、かつて経験したことのある70代以上が中心となって獅子頭を担当していたが、一昨年からは青年2人が力強く披露している。その一人、専門学校生の谷口智大さんは「動きが大きいので人に当たらないよう気をつけています。お客さんが驚いたり、笑ったりしてくれるのがやりがい」。4月1日の練習では、これまではしていなかった肩車の大技「高うなれ低うなれ」に初めて成功。急きょ、今年の演目に組み込むことにした。これで8つある舞のうち、5つの再演が実現する。

 一方、笛の奏法は大谷自治会の山路登司副会長だけが記憶していたが、今では小学生を含む5人に増えた。中学3年の白山愛梨さんは「指の使い方が難しい。音を出すだけでも大変なので出せてうれしい。全部で5曲あり、3曲覚えたので一通り吹けるようになりたい」。指導する山路さんは「自分の代で途絶えるかもしれないと覚悟していた。もう一度獅子舞を復活させようという空気が地域に出てきました」と笑顔を見せる。

 若いメンバーが加わり郷土芸能再興への気運が高まる。谷口会長は「高い丸太の上で舞う加太の獅子舞に影響を与えたとの話も。言われがあるもの、どうにか残せれば」と話している。雨天延期。

 

写真上=大技の復活を喜ぶ谷口会長、同下=笛の練習は音を出すのも難しい

 

(ニュース和歌山より。2017年4月8日更新)