デビュー以来、前人未到の公式戦29連勝を飾った中学3年生のプロ棋士、藤井聡太四段。その活躍に刺激を受け、将棋を始める子どもたちが全国的に増えている。和歌山市内の教室でも新会員が増え、「夢はプロ棋士」と目を輝かせる子も。さらに、藤井四段が5歳の時、最初に将棋を教わったのが祖母だったことから、孫を持つ女性が指導を仰ぐケースも見られる。和歌山での〝藤井四段効果〟を取材した。

和歌山市3教室 入会者続々 孫持つ女性の〝入門〟も

 週末の土曜、7月15日の午後。和歌山市三沢町の中央コミュニティセンターにある10畳の和室は、盤をはさんで将棋にふける子どもたち20人以上の熱気に包まれた。原則第1、3土曜に開かれる和歌山子ども将棋教室。通って3ヵ月の安原小学校1年、貝尻慧(けい)くんは「家ではお父さんとお兄ちゃんと将棋をしています。藤井四段が強いので、僕ももっとうまくなりたいと思い、通い始めました。将来はプロになりたい」。

 こちらの教室、新年度が始まったばかりの4月、5月には毎年、新たに入会する子どもがいるが、今年は6月、7月になっても増え続けている。真田正副代表は「これまでは会員が30人ほどで、うち教室に出席するのは毎回14〜15人。今年は4月以降の新入会が15人ほどいて、きょう初めて来た子も5人いました。この部屋ではちょっとせまいですね」。

 うれしい悲鳴を上げるのは、岩出将棋教室の三嶋聖奈代表も同じだ。和歌山市里のハイツを借りて開くこの教室は予約制で、2人の指導者がマンツーマンで教えるのが特徴。「ホームページからの問い合わせは6月から目立ち始めました。通う子は毎週、平均3人は増えています」。土曜午後に新人専用の時間帯を新設して対応するが、「それでも2ヵ月待ち。申し込んでくれたものの、まだ顔を見ていない子どもさんもいます」。

 同市寺内の東部コミュニティセンターで毎週水曜夜に開かれる東部子ども将棋道場は、6月に4人が門をたたいた。その一人、和歌山大学附属小学校3年の亀本岳志くんは「学校でもはやっていて、藤井四段の連勝が伸びてから、やる子が多くなっています」。安楽川小学校3年の川口聡太くんは紀の川市から通っており、「将来はプロで30連勝したいし、(最高峰のタイトルである)竜王を取りたい」と夢をふくらませる。

 同道場の指導者、伊達隆行さんは同市井辺の自宅でも教室を開いている。ここで7月から個人指導を受けているのが64歳の水本ミエコさん。藤井四段に将棋を教えたのが祖母だったと知ったのがきっかけだ。「将棋の経験は山崩し(※)とはさみ将棋だけでした。今、3歳の双子の孫が5歳になったころ、教えられたらと思って」とにっこり。「力を付けて、東部道場の子どもたちと指すのが今の目標です」

 中学3年生のニューヒーロー誕生で、子どもたちを中心にすそ野が広がる将棋界。伊達さんは「今まで将棋に打ち込んできた子どもたちにとっても、藤井四段の活躍は希望で、明るいニュースです。将棋は対局後、負けた方が『参りました』と言いますが、これにより負けを認められる人間になれる。そこから精神的な強さと共に、『次は取り返してやるぞ』との不屈の精神を身に付けてもらいたい」と願っている。

(※)山崩し…駒を箱に入れ、盤の上に勢いよく裏返し、駒の山を作る。その山から、音が鳴らないよう盤の外へ駒を移動させ、その数を競う遊び。

写真=真剣な表情で将棋を指す子どもたち(和歌山子ども将棋教室)

(ニュース和歌山/2017年7月22日更新)