串本でロケット発射場建設中 スペースワン 太田信一郎代表

 本州最南端の町、串本町で、民間による日本初のロケット発射場「スペースポート紀伊」の工事が進んでいます。完成は今年夏の予定で、来年3月までの打ち上げを目指します。事業を手掛けるスペースワン(本社・東京)の太田信一郎代表に話を聞きました。
写真=人工衛星を積み込む小型ロケットは約18㍍、23㌧(スペースワン提供イメージ図)

 

目指すは年間20機

2019年8月、串本町で開かれた宇宙シンポジウムで講演する太田代表(和歌山県提供)

──いよいよロケット発射場が完成する2021年を迎えました。工事は順調に進んでいますか?

 「スペースポート紀伊については全国の適地調査を踏まえ、2019年3月に串本町を建設予定地として発表した後、県、町の開発許可を頂いた上で工事に入り、その年の11月に起工式を開催しました。造成工事は昨年末までにほぼ終了し、現在は総合指令棟、ロケット組み立て棟などの建屋工事を進めています。順調にいくと、夏に完成する見通しです。その後、宇宙活動法に基づく政府の認定を頂ければ、我が国で初の民間によるロケット発射場誕生となります。2020年代半ばには年間20機と多数の打ち上げを目標としています。実現すれば、和歌山県は〝宇宙に最も近い場所〟になります」

──建設地に串本町を選んだ決め手は。

 「まずは本州最南端にあるこの地域が、ロケットを打ち上げる南や東に大きく開けており、陸地や島々がないとの基本的条件を満たしていることです。住民、地元自治体をはじめとする関係団体など地域の皆様から歓迎されていることも大きな理由です。19年8月に串本で県と町が開催した宇宙シンポジウムで登壇させて頂きましたが、地域の皆様からあたたかいお言葉を頂きました」

 

日本初のサービス

串本町から夢を乗せて(スペースワン提供イメージ図)

──小型ロケットによる商業宇宙輸送サービスを手掛けるんですね。

 「技術進歩により、これまで数トン級だった人工衛星が、段ボール箱やペットボトル程度の大きさでも十分、生活に役立つ機能を持てるようになってきました。大型の衛星に比べ、安価に、また多数打ち上げることができます。新規参入のハードルも下がってきました。小型衛星を打ち上げるためには大型衛星用のロケットでは能力が大きすぎます。私たちが手掛けるのは、専用の小型ロケットと発射場により、お客様の衛星を、お客様の希望するタイミングで、お客様の希望する軌道へ打ち上げるサービスです。小型衛星が多数上がることで、農業、漁業、林業、あるいは災害監視といった様々な用途で暮らしの向上につながっていきます。宇宙を利用するビジネスも国内外で次々と始まり、新しい産業が生まれようとしています。気軽に利用できる『宇宙宅配便』を実現し、様々なサービスの創出に貢献していきます」

──最後に、和歌山県の方々へメッセージを。

 「ロケット打ち上げが、県全体のアピールとなり、観光や教育などでご活用頂くことで、県の更なる発展の一助になれれば大変うれしいです。多くの県民の皆様に『世界で最も宇宙に近い県、場所になる』との夢を持って頂くことはありがたいこと。スペースワンは夢を実現するために地元に根を下ろし、地域の皆様に応援して頂ける企業として、全力投球していきます」

 

スペースポート紀伊

 事業を進めるのは、キヤノン電子、清水建設などが共同出資して設立したスペースワン。串本町の東部、荒船海岸に近い田原地区に建設中。施設は打ち上げる射点、総合司令塔、人工衛星組み立て棟などからなる。今年夏に完成予定。契約から打ち上げまでの「世界最短」と、打ち上げの「世界最高頻度」を目指す。これまでロケットや人工衛星の打ち上げは国の事業として進められてきたが、2018年に宇宙活動法が施行され、民間も可能になった。

(ニュース和歌山/2021年1月3日更新)