東日本大震災からまもなく10年。津波による大きな被害を受けた三陸海岸で、海中のガレキ撤去や海草が再生していく様子を写真に収めてきたボランティアダイバーがいる。紀南を中心に活動する水中写真家、塩崎仁美さんだ。3月3日㊌〜14日㊐には2度目の個展「時は流れて」を和歌山市満屋のアクアで開催。「水中ボランティア活動の写真をまじえながら、東北の海、そして生き物たちを紹介したい」と思いを込める。

水中写真家 塩崎仁美さん 節目迎え個展「時は流れて」

2019年7月、南三陸で撮影。体長2〜3㌢の魚、クチバシカジカが華やかに迎えてくれた瞬間

 「戻って! 津波警報が出てる!」。2011年3月11日、あの日も串本町にいた。午前中に一度潜り、休憩を挟んで再び海へ向かおうとしたところを呼び止められた。「地震の瞬間、海中にいた仲間は大きな音を聞いたそう。その後は他のお客さんたちとテレビを見つめていました」

 東大阪市在住。2002年、紀南で初めてスキューバダイビングを経験し、「空気が泡となり、水が背景となり、宙を舞うように魚たちが泳ぐ景色に見入ってしまいました」。新型コロナウイルスが流行する以前は、水中カメラを手に紀南に通うこと年10回前後。16〜17年にはニュース和歌山で連載「和歌山水中散歩」を担当し、魅力的で、不思議な海中の世界を写真で紹介した。

 3・11から1年後、東北を訪れた。目に飛び込んできたのは、市街地に打ち上げられた大型漁船、流された車が積み上げられた山、津波後の火事で全焼した小学校跡…。癒(い)えない爪跡を目の当たりにし、「まだまだ人の手でできることがある」と、NPO三陸ボランティアダイバーズへの参加を決めた。

 当初は、水中にあるガレキの撤去前と後を写真に収める作業を中心に手伝った。最近はアマモやコンブなどが茂り、魚たちが集まる藻場を再生させる様子を撮影。「水中という特殊な環境での記録係といったところですね」。現地へは9年間で20回以上、足を運んだ。

 震災から5年が経過した16年、初めての個展を和歌山市のアクアで開いた。塩崎さんのダイビング仲間で、アクアを営む吉田雅信さんは「報道のほとんどは陸上の復興を伝えるもので、海中についてはあまりないため、皆さん興味深く見ていた。ガレキのような悲惨な面だけでなく、海中の自然が回復する写真も多く、生命力を感じられる展示でした」と振り返る。

 今展は最近5年間の写真が中心。水中ボランティアたちが活動する様子や、東北の海にすむ生き物たちをとらえた約60点を紹介する。毎年、同じ時期に現地を訪れ、海中の移り変わりを見つめてきた塩崎さんは「すばらしい海が身近にある和歌山の方々に、少しでも東北や、東北の水中に興味を持っていただき、思いをはせてもらえたら」と願っている。

 展示は午前10時〜午後5時。8日㊊休み。アクア(073・463・4640)。

写真=愛用の水中撮影機材を手にする塩崎さん

(ニュース和歌山/2021年2月27日更新)