精巧な生物の展示模型を作る会社が紀美野町にある。アンフィ合同会社。3Dプリンターを駆使し、学術的な正確さをふまえたレプリカは博物館の企画展に活用される一方、インターネット販売するオオサンショウウオの壁掛けやほ乳類の頭骨といった作品はインテリアとしても人気を集める。地域イベントに積極的で、同社は「模型を通じ、自然と生き物に親しむ機会をつくりたい」と望んでいる。

3D駆使し生物造形〜アンフィ合同会社 地域イベントも人気

(左から)作品を持つ佐々木代表、坂本さん、江田さん

 

 紀美野町三尾川。山奥の民家に設けた作業場には巨大なサメの歯、キリンの頭骨、サンショウウオにワニガメ、オーストラリアのヨロイモグラゴキブリと多様な生物の模型がずらり。大きさに大小はあるが、いずれも実物と見まがう精巧さだ。

 「博物館など施設に向けたものは学芸員の意見に細部まで向き合います。アカハライモリをとっても地域、性別、季節によって形や色が違う。そこまでこだわるのがうちの特徴」と営業担当の江田慶紀さんは語る。

 会社立ち上げから3年で、群馬県立自然博物館でヤマビル、ヒゼンダニなど「見たくないのでちゃんと見てない生き物」を主題にした企画展の模型を担当。富山県の博物館ではハコネサンショウウオやヤマカガシ、和歌山県立自然博物館では、紀伊半島周辺の地形ジオラマを作り、実績を重ねている。

 代表の佐々木彰央さんは静岡大学大学院修了後、ほ乳類や両生類、またこれらに付くヒル類を研究。長年、静岡県の絶滅危惧種調査にかかわり、広く生き物に興味がある。着色担当の坂本友実さんは多摩美大で油彩を学び、その後、古生物の輸入や恐竜の骨を組み立てる会社で働いていた。

 二人は静岡の博物館ボランティアで知り合い、佐々木さんが作ったマムシの石こう標本に坂本さんが色を付けたのが最初のタッグ。その後も何度か一緒に仕事をする機会があり、佐々木さんが親戚の住む紀美野町に移った3年前、共同でアンフィを立ち上げた。博物館など展示施設のグッズを扱う会社の社員だった江田さんが加わり、現在3人で運営する。

紀美野町に寄贈した全長150㌢ティラノサウルスの頭骨レプリカ

 粘土などで造形する模型と違い、コンピューターでデータ化し3Dプリンターで出力するため、「なんでも作れる」のが最大の強み。佐々木代表は「依頼者の表現したいディテールを聞き取り、データに反映するため、納品完了まで非常にスムーズ」。着色は油性や水性、その中間の塗料を使い分け、自然光、色の違う電灯と光を変え試みを常に重ねる。坂本さんは「色の奥に色がある場合もある。塗り重ねたり、筆を使わなかったり。NHKから依頼のあったティラノサウルスの模型は鳥の羽を植えつけ、リアルさを追究しました」。

 ネット販売する模型も両生類、ほ乳類、昆虫と幅広く、最近は8㌢とてのひらサイズのほ乳類頭骨が好評だ。最も身近に同社製品を手にできるのは海南市船尾の県立自然博物館で、モササウルスなどの歯の化石3種類をカプセル玩具にして販売する。監修した学芸員の小原正顕さんも「細かい指摘に丁寧に対応してくれ、3D技術のなせる技と思った。地方の博物館に一つしかない展示物をガチャガチャにはなかなかできない。いい企画ができた」と満足げだ。

 イベントにも力を入れ、和歌山市のキーノや海南ノビノスでティラノサウルスの模型、岩出市の緑花センターでウツボカズラの模型に着色する体験会を開き大好評を得た。今夏もイベント実施を目指し、計画を進めている。

 佐々木代表は「模型は生き物を殺さず、見て理解してもらえる。標本並みに正確に作るのが一番の軸で、学会や研究会と連携し進めたい。地元でも地域の自然に気づける活動ができたらと考えています」と話している。

 製品はアンフィHPで閲覧できる。

(ニュース和歌山/2021年7月24日更新)