東日本大震災、そして紀伊半島大水害から今年で10年。和歌山大学は災害に強い人材を育てようと、「災害ボランティアステーション『むすぼら』」を新設した。これまでは大規模災害が起こる度、有志を募ってボランティアバスを出して対応してきたが、常設の拠点を設けることで、平常時から防災・減災・復興の担い手となる人材育成を目指す。
和歌山大学が拠点常設 リスク考え動ける人材育成
2011年の東日本大震災後、和大では学生ボランティアチーム「フォワード」が立ち上がった。同年9月には紀伊半島大水害の被災地でボランティア活動拠点を開設・運営したほか、泥だらけになった写真の修復活動などに取り組んだ。和大災害科学・レジリエンス共創センターの西川一弘准教授は「和歌山県に立地する大学として、機動的に対応するためにも、このような組織を常設しておく必要性を強く感じていました」と説明する。
今回発足したむすぼらは、〝ボランティア〟と和歌山弁の〝結ぼら〟を足して名付けた。現在、学生、教職員合わせ55人が登録する。「教員を目指している。子どもへの防災教育の参考に」「串本町の職員になりたいので防災に興味がある」など理由は様々。経済学部3年の龍田千里菜さんは福島県出身で、「東日本大震災や原子力発電所の事故による被災時、ボランティアの方に助けられた。災害時には、現場で地域に寄り添った手助けが重要。私自身も手を差し伸べられる人になりたい」と話す。
発足日の3月11日には、2月に福島県沖で大きな地震が起こり、多くの家屋で屋根瓦に被害が出たのを受け、段ボールと防水シートを材料にした応急用の瓦「アシスト瓦」51枚を作り、現地へ送った。このほか、防災カードゲームや防災食の体験会を開いてきた。
避難所運営ゲームを体験した経済学部3年の山田柚歩さんは「持病を持っている方の避難、車を運転してきた方、テレビ局の取材…と予測できない様々な状況への瞬時の対応が難しかった。避難所を俯瞰(ふかん)できるカードゲームでさえ苦労したので、現実に運営するのは、さらに大変だろうと感じました」。
大学院生の中村勇太朗さんは和大1年だった10年前、岩手県や紀南でボランティア活動に汗を流した経験を持つ。「岩手では『次はあなたたちの番ですよ』と言われました。『南海トラフ地震に備えて』との意味です」と振り返る。「こちらが支援する以上に、多くのことを学ばせてもらいました。大学生たちには体験を伝えて知識を共有し、災害時にすぐ集まって協力できる体制、仕組みづくりを提案していければ」と語る。
学生らは「防災教育」「遠隔支援・情報支援」「スキル研修」といったワーキンググループをつくり、それぞれ活動をスタートさせている。西川准教授は「緊急事態の時は、普段の考え方や方法が通用しないことが多々ある。そのような時も指示待ちではなく、リスクを考えながら、できること、やらなければならないことを自らで組み立てられる学生に育ってほしい」と願っている。
写真上=7月には災害避難ゲーム、避難所運営ゲームなどカードゲームで防災について学んだ
同下=福島県へ送った応急用の瓦「アシスト瓦」にはメッセージやイラストを書き添えた
(ニュース和歌山/2021年8月28日更新)