都市部の学生や社会人が日帰りで農家を訪れ、無償で農業を手伝う「援農ボランティア」。2008年から県が実施しているもので、学生を中心に例年300人前後を受け入れ、リピーターも多い。近年は地方への移住や就農のきっかけにしてもらおうと社会人に向けた呼びかけを強めており、農家は「都市部の人が継続的に来てくれると地域が盛り上がる。良い制度なので定着するよう、こちらも努力したい」と協力的だ。

注目集めるボランティア〜社会人の移住や就農に期待

作業しながら農家と交流を持つ参加者

 

 11月下旬、海南市下津町のみかん畑。農家の説明を受け、慣れない手つきで果実の袋がけに精を出す人たちの姿がある。援農ボランティア「わかやま援農隊」に応募した都市部の学生と社会人だ。その一人、看護専門学校に通う大阪府の向井美葵さん(18)は授業の課題でボランティア活動先を探す際、興味のあった農業から選んだ。「いつも当たり前に食べているものが、どんな環境で、どんな人が作っているか気になっていました」

 今回の活動は1日だけ。朝10時〜夕方4時と短時間ながら、農家の思いに耳を傾ける時間もたっぷりある。「地道な作業や話を聞き、食べ物は見た目じゃないと価値観が変わりました」と声を弾ませる。4年前から年2回受け入れる井邊博之さんは「自然栽培への思いを話すと、驚きながらも真剣に聞いてくれる。若い人の反応は自信につながる」と目を細める。

 援農ボランティア事業は08年、農家の担い手不足解消と地域活性化を目的に県が始め、外部事業者に運営を委託している。都市部の人と県内の農家をマッチングし、1〜2日で終わる軽作業の手伝いを通して交流を図る。応募者は年々増え、コロナ前の19年は約50ヵ所で実施し、400人以上が活動した。

 社会人の姿が目立つようになったのは、援農や食育ツアーに力を入れる全国農協観光協会に委託した今年からだ。例年は4〜8人に対し、今年は10月からの2ヵ月強で20人以上が参加した。県里地里山振興室は「都市部への周知ができてきた」と喜び、「社会人が来れば経済が動き、企業が社会貢献として地域に入る足がかりも期待できる。移住や就農を考える人の入り口になる」と考える。

 都市部から参加する人の思いは多様。大阪府の会社員、小柳二三夫さん(56)はがんを患い、体が動く間に人の役に立ちたいと考えていたところ、職場で社会貢献活動の話が出たこともあり応募した。登山が趣味で、田舎暮らしへのあこがれもあった。「会話しながらできる作業で、気分転換になった。社会人は自分の時間が少なく、休日を費やすのは勇気がいるが、子どもの手が離れた50代なら新しい趣味を始める感覚で良いのでは」

 農村における地域連携活動に詳しい和歌山大学食農総合研究教育センターの岸上光克副センター長は「単なる労働力ではなく、ワーキングホリデーのようなリフレッシュ目的で参加できる。農家は観光客とは違う密な関係をつくれ、消費者の農業理解につながる。すぐに結果は出なくとも間口を広げ継続し、関係人口を増やすことに意義がある」と話している。

 

わかやま援農隊募集

 2022年3月下旬まで。園地最寄り駅までの交通費の一部補助。昼食持参。詳細は「わかやま援農隊」HP。全国農協観光協会西日本事務所(06・6195・3960)。

(ニュース和歌山/2021年12月11日更新)