和歌山県外から移り住み、新しいつながりを生もうと奮闘する人たちがいる。移住者同士のコミュニティ、働く人をつなぐ場所、地元の人と旅人、商店街でのお試し営業…。4組の思いを聞いた。

 

孤独や不安 取り除きたい〜交流会を毎月開催 藤原和香奈さん(42)

 移り住んだ和歌山で知人のいない孤独を感じた経験から、移住者同士の交流会を開く。「先輩移住者とつながることで、新生活の不安が減り、やりたいことが早く実現する。和歌山の生活を面白くしたい」

 仕事に育児にと慌ただしい東京での生活に疑問を抱き決断。一昨年10月から、祖母が住んでいた和歌浦にある築100年の古民家で、夫と娘、そしてニワトリと暮らす。「片男波の透明な海、漁港の新鮮な魚介、歴史ある町並み、全てが魅力。ちょっと不便なところも、人間らしさを感じます」

 新たな生活を楽しむ一方、知り合いがいない不安…。それが原因で定住できず、元いた場所へ戻ってしまう人がいると知り、いろんな人がつながれる場をつくることにした。

 昨年9月から、移住者交流会「ツナガルワカヤマ」を毎月開催。大学生から60代まで、顔ぶれは変わりながら、毎回10人以上が参加し、移住者視点でおすすめのスポットや店を紹介し合う。出たアイデアから梅農家見学会や写真好きが集まっての撮影旅行を開いた。

 UIターンを考えている人向けの交流会も実施し、 お気に入りの場所や和歌山暮らしの様子などをユーチューブの「移住家族ちゃんねる」で配信。「今後は地元の人とつながるお手伝いもできれば」と意気込む。

 詳細は「ツナガルワカヤマ」フェイスブック

 

個人で働く者のコミュニティ〜コワーキングスペース運営 旭大輔さん(36)

 まちなかながら、緑に囲まれた和歌山市北桶屋町の本町公園にある建物、本町プランテ2階。働く環境に縛りがない人に場所を貸し出すコワーキングスペース「cotowa」を2020年夏に始めた。

 和歌山の女性と結婚したのをきっかけに、5年前、東京から移り住んだ。フリーライターとして活動を始めた時、活用したのが同市のコワーキングスペース。そこで知り合った個人事業主たちと同じ空間で仕事をする中、「個人で働く者同士のコミュニティを増やし、自分たちで仕事を生み出せる場にできないか」と、cotowaを立ち上げた。

 利用者は徐々に増え、月額会員が一昨年の1人に比べ、現在は15人に。最近はリモートワークの定着で、地方での生活を希望する人が増えており、相談が目立ってきた。移住を機にフリーランスになる人に向け、地方で仕事を生み出す方法や、働き方のアドバイスも行う。

 自然豊かで、白浜空港があることから、紀南への移住を望む人は多い。「ただ、いきなり一人で行っても知り合いがいない。まずは紀北に住み、cotowaを拠点に、紀南も含めた人間関係を築いてから紀南へ移り住む流れを提案している。この場所を積極的に活用してほしい」と願う。

 詳細は「cotowa」

 

旅人たちが集う場所に〜ぶらくり丁でカフェバー開店 關風我(せき ふうが)さん(25)

 自称〝旅人〟。7年かけて国内外を回り、拠点と決めたのが、ぶらくり丁だ。昼は喫茶店、夜はバーになる「フーガズカフェ」を1月1日に開店した。「和歌山には半年間だけいるつもりが、たくさんの人に恵まれて…。大好きになったこの街で店を開きたいと考えました」

 愛知の高校を卒業した翌日からヒッチハイクで京都を目指し、その後も国内だけでなく、オーストラリア、タイ、カンボジアなど数ヵ国を回った。3年前、海南市下津町のみかん農家に2ヵ月間住み込み、アルバイトに汗を流した。その後は和歌山市に移り、新通のゲストハウスリコ1階を間借りして、期間限定のコーヒースタンドを開いた。

 しかし、新型コロナウイルスの影響で、旅が再開できなくなった。落ち込みながらもイベントで出店したところ、初対面の人から「いつもインスタ見てます」と声をかけられた。1日に250杯売り上げたことで自信を深めた。そのイベントで借りた空き店舗、窓からの景色が気に入り、カフェバー開店を決意した。

 「今年は宿泊スペースもつくる予定。ゆくゆくはこんな施設を全国に展開するのが夢です。僕自身の旅の話はもちろん、訪れた旅人に1日店長をしてもらい、地元の人と交流を深める場所になれば」

 詳細はインスタグラム「風我珈琲店」

 

これからの商店街をつくる〜美園で〝お試し営業〟企画 前川怜輝(さとき)さん(27)・手嶋晋吾さん(28)

 店舗が減り続けるJR和歌山駅前のみその商店街を活性化させようと、若者たちにアーケード内のシェアハウスで暮らしながら、お試しで店を営業してもらう取り組みの開始に向け準備を進める。中心になるのは、山梨出身の手嶋晋吾さん(写真右)と滋賀出身の前川怜輝さん。前川さんは「個性的な人が店を出し、その人を目的に県外から人が訪れる商店街にしたい」と熱を込める。

 無人島を観光資源化するプロジェクトの運営メンバーだった手嶋さんと、飲食業や広告業を手掛ける前川さんは2018年、有田市の無人島イベントで知り合った。このイベントにかかわるみその商店街理事長から、商店街活性化への依頼を受け、2年前に和歌山市へ移住した。

 まず昨春、活動の拠点となるシェアハウスとカフェを開設した。手嶋さんが県外からスカウトした人たちがシェアハウスで生活しながら商店街のイベントや店舗改装を手伝い、店主らと関係を築いてきた。

 約9ヵ月で参加したのは10人。和歌山市への移住に乗り気な人も出てきた。手ごたえを感じる手嶋さんは「今年はカフェを間借りしたお試し営業や、イベントを経験してもらうプチ移住者を増やしていきたい」。2人の挑戦は始まったばかりだ。

 詳細は「またたびハウス 和歌山」

 

仕事・暮らし体験しよう

 移住を希望する人たちから注目を集める和歌山県。2020年にふるさと回帰支援センター(東京都)が開き、3702人が参加したオンラインセミナーで、全国45道府県中、和歌山県がトップだった。県によると、20年度に移住してきたのは645世帯、952人だった。

 県移住定住推進課は3月まで「わかやましごと・暮らし体験」を実施中。起業や就農希望者に、先輩移住者や地元の人から暮らしのアドバイスを受けられるコースと、企業への就労を希望する人に地元企業を紹介し、仕事を体験できるコースの2種類。参加無料。同課(073・441・2930)。

 

相談窓口

 和歌山県が設けた専門窓口と本紙配布地域の各市町担当課は以下の通り。
〇わかやま定住サポートセンター 073・422・6110
〇和歌山市移住定住戦略課 073・435・1013
〇海南市都市整備課 073・483・8480
〇岩出市市長公室 0736・62・2141
〇紀の川市地域創生課 0736・77・2511
〇紀美野町まちづくり課 073・495・3462
※HP「わかやまLIFE」にも各種情報を掲載。

(ニュース和歌山/2022年1月3日更新)