千田浩司さん 障害に負けず没頭

 手足がひどくむくむ四肢浮腫を患い、歩くこともままならず、要介護認定を受けながらも工芸に打ち込む和歌山市弘西の千田浩司さん(68)。「苦しいことはたくさんあるが、作品づくりで人生に花を咲かせたい」と目を輝かせる。

 10歳で脳の障害が見つかり、以降、対人恐怖症や多弁症など、コミュニケーションに不安を抱えてきた。守衛として勤務している時も、人付き合いへの悩みは尽きなかった。

  「自分で作った家宝です」と笑顔の千田さん

 64歳の時、部屋を片付けるために薬を入れたプラスチックケースを積み上げていたところ、「重しを入れて、振動に耐えられるように」「照明を入れると夜でも見やすくなる」とひらめき、改良を加えた。きれいに光る完成品を見て、「これを応用し、人を喜ばせるものを作りたい」と考えたのが創作を始めるきっかけ。空き瓶にドライフラワーと星形の小さな飾りを入れ、油を注いだハーバリウム200個を、知人にプレゼントしてきた。

 しかし、2年半前に四肢浮腫を発症し、手のむくみから細かな作業が困難に。それでも病に負けまいと、時間をかけ制作に没頭した。

 今年、初めて和歌山市美術展覧会に応募。立方体のケースに、赤い下敷きをはり、中に電飾を入れた「ザ・ビンチ太陽」を出品し、幻想的な力強いオレンジの光を放つ作品で入選した。

 「7、8年前まで引きこもり状態だったが、創作を始め、作品を人に配っているうちに、対人恐怖症を克服できた。歳を取ってから始めたことでも、一念発起すれば人生を豊かにできると、同世代の人たちに知ってもらえれば」と熱を込めている。

(ニュース和歌山/2022年11月12日更新)