廃旅館解体へ和市初 代執行 地域の価値高める動きも

 各地で増え続ける空家。県内には約10万戸あるとされ、空家率は20・3%と全国平均の13・6%を大きく上回り、ワースト2位の状況だ。和歌山市では雑賀崎の斜面に建つ廃旅館を、「周辺に危険が及ぶ可能性が高い」と5月22日までに処置されない場合、市初の略式代執行で解体する。一方で、空家を増やさないよう、撤去やリフォーム、地域拠点への転用に補助制度を設けるなど利活用を進める施策が次々投入されている。

飛散防止にネットがかけられた雑賀崎の廃旅館

 後継ぎがいなかったり別の場所に生活の拠点があったりと、人が住まなくなって放置された建物には、倒壊や飛散の危険があるものも多い。

 住める状態でない住宅が放置される背景には、固定資産税の軽減措置がある。家が建っていさえすれば土地評価額の6分の1を基準に税額が算出されるため、そのままにしておくからだ。

 対策として国は2015年、使用されず危険な状態の建物を特定空家に指定する空家対策特別措置法を施行。所有者が適切に処置しなければ税の優遇対象から外すことで、空家減少をねらった。

 和歌山市では、同法制定前の14年から不良空家制度を設け、撤去補助を開始。近年は毎年50~60件活用される。また、特定空家にはこれまで29件を指定し、うち22件の撤去につながった。

 50年ほど前から放置される雑賀崎の廃旅館は、屋根や壁、窓が崩れ、危険な状態。旅館の下側でマリンスポーツ店を経営する池田保さんは「荒れ放題で、台風の時は屋根や壁など色んな物が飛んで来て、道がふさがれることもある」と危機感を募らせる。

 撤去などの処置は所有者の義務だが、本人が4年前に死去したうえ、相続人が全員相続放棄したため、現在は所有者がいない。市は所有者不在物件に対する略式代執行を市内で初めて適用する方針を固め、撤去費用約7千万円を今年度予算に計上した。

 なお、略式代執行や撤去補助について和歌山市空家対策課は「市が撤去するのは被害を未然に防ぐため。不良空家の撤去補助も同様で、こうなる前に所有者が対応すべき」ときっぱり。

空家を会議や体操に使えるよう改修したと話す木下さん

 一方、空家の利活用を進める動きもある。和歌山市では地域の交流拠点や若者向けシェアハウスへの転換を進めており、秋葉町自治会館への改修や、山東、本町で拠点づくりを支援した。

 当時、秋葉町自治会長だった木下守さんは「会館になり、プログラミング教室や歌う会、エクササイズなど世代を問わず交流できる場ができた」と笑みを見せる。

 また、県や市が運営する空家バンクを通し移住する際のリフォームを補助。さらに、紀の川市では「空家発生は地域の価値低下によるところも大きい」と、昨年は打田駅、今年は粉河駅周辺を対象に、エリアリノベーションとして空家だけでなく地区全体の魅力アップへの取り組みをサポート、総合相談窓口も設ける。

 景観や安全に関する問題解決をはかりながら、新しい活用法を模索し地区としての価値を高める動きとの両輪で、空家対策の歩みが進んでいる。

(ニュース和歌山/2023年5月20日更新)