新型コロナ感染症の影響で思うような教育に取り組めなかった期間を経て、5月に5類相当に移行したことで学校に少しずつ自由な生活が戻ってきました。一方で、リモート授業など図らずも教育DX進展につながった面もあります。これらを踏まえ、これからの「和歌山らしい教育」について、宮﨑泉県教育長に榎本ゆかりニュース和歌山編集長が聞きました。

個性を生かし 受け入れ 育てる 多様性 豊かな教育の推進

「多様な人と関わる中で、合意形成する力を身につけてほしい」と語る宮﨑教育長

榎本 ゆかり ニュース和歌山編集長

榎本編集長(以下、榎本) 4月に県教育の方向性を示した第四期教育振興基本計画を発表されました。まず、計画に込めた思いをお聞かせください。

宮﨑教育長(以下、宮﨑) 計画は今年から5年間の方針を定めたものです。特に、大綱としたのが「和歌山らしい教育を目指して」。この中で、子どもたちには自分で考え表現する、そして、異なる価値観や立場の人と議論を通し、合意形成できる人になってほしいとしています。大綱の大切なキーワードが「多様性」です。

 

 

 

子どもに合う 学びの場提供

榎本 これからの社会において多様性は必須です。詳しく教えてください。

宮﨑 1つ目は子どもたちの多様性です。不登校だったり、特別な支援を必要としたり、外国籍だったりと様々な子がいます。それぞれに合った学びの場を提供していきたいと思っています。本人や保護者の意思が尊重されるとともに、受けたい教育を受けられる環境を保障しなければいけません。そのための対応が求められています。夜間中学についても、設置に向けて積極的に進めていきます。

 2つ目は学びの多様性です。現在、県立高等学校では普通科、専門学科(工業科、農業科、商業科等)、総合学科の学びをブラッシュアップして、様々なニーズに対応できる学校をつくろうとしています。一例を挙げますと、2024年度から串本古座高校に公立高では全国初となる宇宙探究コースを設置します。また、工業科では、ワーキング会議を立ち上げ、今後の成長が見込まれる産業分野の調査研究をしています。

 子どもたち一人ひとりの個性や適性が生かされ、教育や学校がその個性を認めて育てることが大切です。

写真=空き缶サイズの模擬人工衛星「缶サット」を制作する中学(写真上)と専門家を招いて行われた串本古座高校の宇宙講座(同右)。学びの多様性に対応する取り組みに注目が集まる。

 

自己研鑽や相互評価で 教員の資質向上 

地域や家庭も教育の根幹担う

榎本 学力の定着、向上への具体的な取り組みはいかがですか。

宮﨑 県はこれまで、独自の学習到達度調査を始め、様々な試みを実施してきました。有効な結果が出ることもあれば、それほどでもないこともあり、常に模索し続けています。

 その中でも重要なのは教員の資質を上げることです。教員自らの意思で自己研鑽(けんさん)しようと思う自主性が重要です。授業を見せ合い、評価し合うことや、教科研究会などで議論することは良い勉強になると思います。私も研究会に参加したことがあります。こんな熱い先生に教えてもらうと、子どもたちは生き生きと授業に参加するだろうなと思えて、感動しました。

 一方で、教育の根幹は、学校はもちろんですが、家庭や地域での教育が大切だと思います。これまで、家庭や地域が担ってきた教育の多くが、学校に持ち込まれている側面があり、学校にかかる負荷が過多になっていないかと危惧しています。

地域と学校の 自然な関わり

地域の人と一緒に田植えをする子どもたち

榎本 「子どもは地域で育つ」ともいわれます。私たち大人は、どのように教育に関われば良いのでしょうか。

宮﨑 学校の存在は地域の活性化に一役買ってきました。これからは、地域も今まで以上に、学校に関わっていってほしいと思います。そのためには働きかけが必要です。校長やPTA会長だけでなく、地域の方々が頼りです。地域の方々には、ぜひ学校に関心を持ってもらった上で、子どもたちの育ちの一端を担っているという気持ちで、温かく見守ってほしいと思います。

 ある小学校では、子どもたちが地域の方々と一緒に野菜を栽培し、その感謝の気持ちを地域の方々にお返しするという活動をしており、心のこもったお付き合いができています。このような事例を、「特別な良いこと」ではなく、どの地域にもある「自然なこと」にしていければと考えています。

業務効率化で 元気な働き方

榎本 教育DXについてどうお考えですか。

宮﨑 児童生徒一人一台端末の活用や通信ネットワーク環境の整備などを総合的に進めるため、今年から県教育委員会に教育DX推進室を設置しました。まずは需要に応えるネットワークの整備、小学校から高校まで一貫して使用できる県域統一アカウントの配布、ICT機器の活用を助けるICT支援員の配置を進めます。また、ChatGPTのような生成AIとの上手な付き合い方も考えていきたいですね。ICTの活用や教育DXの推進には効率化というメリットもあります。業務を棚卸しして、ICTがどう活用できるかを考えることで、教員の負担を軽減し、子どもたちと向き合う時間を増やしてもらいたい。教員が元気でなければ良い教育はできませんよね。

一人前と認めて

高校卒業で独り立ちできる力を

榎本 保護者に伝えたいことはありますか。

宮﨑 現在、特に高卒人材が求められています。新規高卒生の求人倍率は2・6倍ほどとなっています。氷河期には0・8倍ほどでしたから、3倍以上。そこで、子どもさんが高校卒業時に就職を希望するなら、その願いを叶えてあげてほしい。また、学校を卒業する子どもたちを一人前として見てあげてほしいということを伝えたいです。皆が認めることで子どもは成長します。そして高校の教師も、卒業するときには子どもたちが独り立ちできるようにしてもらいたいと思います。

 これからの世の中を担っていくためにも、周りの大人たちの応援する気持ちとともに、意識の変革が必要な時代になってきていると感じます。

榎本 最後に、一年を振り返ってうれしかったことをお聞かせください。

宮﨑 何といってもコロナが収束してきたことです。子どもたちが再び色々な体験をできると思うと、教育を預かる者の一人としてこれほどの喜びはありません。

(ニュース和歌山/2023年12月23日更新)